第五十七訓 ページ16
「…ごめんなさい、少し、昔のことを思い出していた」
ひどい道化だ。思い出す過去の彼は全て優しかった。あれが全て嘘だと思うとゾッとする。優しさだとかそういう暖かいものに飢えていたあの頃に見たという点を加味しても、冷泉は恐ろしい程に化けていた。
ふと銀時と目が合う。そういえば、どうしてこの男は私をここへ呼んだのだろう。すると彼は名前だけ書かれたシンプルな名刺を差し出した。
「俺ァ何でもやる万事屋やってんだ」
「…だから、何」
「気づいてねーかもしれねーが、さっきからお前ひでぇ顔してるぜ」
手鏡を出して己の顔を確認すると、いつものつまらない顔だった。だが、どこか悲しさを醸し出している…気がする。自分ではよくわからないが、他人が言うのならそうなのだろう。
「一人で動くのは制限があるだろ。相手は宇宙相手にしてる警察様だ。情報収集とか、殴り込みでもやるぜ?」
驚いた。まさかこの人が私に協力しようとしてくるとは。でも、一人で動くという点は違う。頭の中で長い三つ編みが揺れた。
私は首を横に振った。銀時は少しだけ笑うと、「もしかして一人じゃなかったか」と言った。
「…ええ。その人がいれば、私は十分なの」
だからごめんなさい、と謝ると、彼は今度は本格的に笑った。背後の押入れから少女の唸る声が聞こえてくるほどに彼は笑った。
「お前さん、その協力者のこと好きだろ」
零れた涙を指で拭いながら彼は言った。少しポカンとしてしまったけど、すぐに閉口した。改めて言われると何だかむず痒いが、我慢した。
「…そうね。好きよ」
決して許されることは無い恋。だけど、好きになってしまったものは仕方ない。今までの世界が色づいて見えるほどには好きだ。
荷物を持って立ち上がる。そろそろ帰らないと彼が心配する。玄関で靴を履いていると、家主の代わりに寝ぼけ眼の少女が見送りに来た。
「子供は寝る時間だと思うけど」
「…お前も子供ダロ」
十七と十四は結構違う。だけど彼女にとっては一緒なのだろう。私ももう寝るよと返すと彼女は寝起きの不機嫌そうな顔で目をこすった。
それじゃあねと扉を開けて挨拶をすると、彼女は彼とよく似た蒼い瞳で聞いてきた。
「アイツのこと、よろしくネ」
…誰のことを言っているのかすぐに分かったし、彼女が彼の何なのか察しはついた。
だからこそ、私はこう返す。
「…さぁ、誰のこと?」
カラカラと扉を閉める。最後まであの蒼い瞳がこびりついて離れなかった。
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きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます! 原作での神威の発言から察するに、神威は異性を見る時まずどんな子を生むか考えるんだろうなと思いながら書きました。でも見た目にもうるさかったらいいなとも思いました笑 応援とても励みになります。精一杯頑張ります! (2018年9月8日 0時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - とつても面白いです。主人公の設定とかとても良いと思います。神威のセクハラプロポーズのところが新鮮で良かったと思います。更新待ってます。頑張ってください。 (2018年9月6日 23時) (レス) id: 34ad78a799 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - kamiyakazi725さん» お返事遅れてしまい申し訳ございません。応援していただきありがとうございます!なかなか時間がなく、更新もかなり遅めですが完走できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2018年8月14日 14時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
kamiyakazi725 - とても面白かったです!更新楽しみにしています!神威&夢主ちゃん大好きです!神威かっこよすぎて鼻血g← 頑張って下さい!応援してます! (2018年7月23日 22時) (レス) id: 7058246684 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - 吾君トさん» 吾君トさんありがとうございます!更新遅くて申し訳ないです…。なんとか合間を縫って頑張りますので、これからもこの作品をよろしくお願いします!! (2018年6月15日 17時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんぴらごぼうちゃん | 作成日時:2018年5月30日 18時