20.背中 ページ20
何をしているのか。
Aに目もくれず俺を睨んでいる。
数秒程そのままでいた沖田は、何事も無かったかのように歩き出した。
何故か反射的に立ち上がった。
「A ちょっと待ってろ」
「えっ 坂...」
俺を呼び止めようとする声を遮って店から飛び出す。
沖田の消えた方向に走り出した。
前をゆっくりと歩く亜麻色の頭を見つけて立ち止まる。
すると、それに気づいたかのように沖田も足を止めた。
「旦那ァ 言ったでしょ
殺人犯は女だって」
「依頼の張本人はてめぇか」
こちらをゆっくりと振り向く沖田。
その目の色は、怒りが込められていた。
「何の事でィ」
「おたくの監察に俺のところにふざけた依頼を持ってこさせたのはてめぇかって聞いてんだ」
「何言ってるか分かりやせんが
気をつけた方がいいですぜ
ブスリと刺されても俺ァ知りやせんよ」
そう言って沖田は踵を返す。
が、
「知ってんのか アイツが誰の為に罪人になるようなことやったか」
俺の言葉にまた足を止めた。
「お前 上から命令されてんだろ
あの女殺せって
ならなんであの時も今も
アイツを殺さねぇんだ」
それが第一の疑問だった。
神楽が始めて会った時、沖田はAを殺そうとしていた。
だが今回もあの日も、沖田はAに剣を向けるどころか自ら遠のいている。
その理由が分からなかった。
「アンタに関係ねぇだろィ」
「巻き込んだのはてめぇだろーが」
「だからッ!!俺はアンタに依頼なんかしてねぇ!!
勝手に勘違いして決めつけんじゃねぇ!!」
俺に背中を向けながら怒鳴る沖田。
その背中は、何故か小さく震えていた。
怒りか恐怖かは分からない。
ただ俺には、その背中は泣いているように見えた。
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作者名:捺稀 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年12月7日 0時