四十八 ページ48
隊士の一人がミツバちゃんのことを伝えにくるまでにそんなに時間は要さなかった。
ただ眠っているだけだと言っても疑われないくらい綺麗な顔だった。その顔に少し笑みが残るように見える、幸せだったと言わんばかりに。
ゆっくりと歩みを進める私の片手には激辛煎餅の未開封袋。
無機質な音を立てて開く扉を押せばまだ雨は止んでないみたいで病院服を濡らしていった。雨を弾く素材の隊服とは違いそれはどんどん染み込む。
今にも泣きそうな顔をしている彼は何かを我慢しているのか眉が寄っていた。隣へ行き袋を開ければそれを差し出す。
「ンだよ」
『一緒に食べよ、辛いけど』
そう言えばそれを受け取り一口、バリッという音が雨の音に混ざる。
もう一つ取り出して一口。
口内が辛味に襲われる。
「ンだよ、これ…。かっれェ」
『あの人なんちゅーもん食べてんの…』
「全くだ。…あー、辛ェ。辛くて涙出てきた」
流れる涙は十四郎ちゃんのものなのか、それともただの雨なのか。何方にせよ少し鼻声になっていることは明らか。
背中を右手でさすってやる。いつもなら跳ね除けられる手も今日ばかしは置いておいてくれるようで、煎餅を食べながら十四郎ちゃんは雨の音に隠すように嗚咽を漏らした。
ーーー全てこの辛い煎餅の所為ということにして。
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年8月31日 0時