この世界の片隅に【土方十四郎】 (ページ26)

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二十六ページ26

「これって誰かに教わったの？」

『…かな』

「もしかして、お母様？」

『多分ね、覚えてないけど』

私が近藤さんの道場にお世話になる前のこと、その出来事は何一つ覚えていない。何人家族でどんな家でどんな生活をしていたのか、全て覚えていない。

私の中での一番古い記憶は、私が蓮と呼ぶ10歳ちょっとの男の子と刀片手に戦っていたこと。

私達を攫おうとする野党や人斬りを斬って歩いてた。力尽きそうになった時に近藤さんに拾われたこと。それを話せばミツバちゃんは申し訳なさそうに目を伏せた。

「ごめんなさい…こんな話させるつもりじゃ…」

『気にしないで、もう過去の事だから』

「…なら聞いてもいいかしら」

『ん？なーに？』

「その蓮さんという方、Aちゃんと私が知り合った頃にお見かけしなかった気がするのだけれど…」

『簡単な話だよ。蓮は近藤さんが総悟くんを門下生として迎える前にどっか行っちゃった』

そう、彼は私が6つになる頃。

＂必ず迎えに来る＂

その一言を紙に残して消えた。辺りを探したが彼はもういなくて、すごく泣いたのを覚えている。けれど彼の残した言葉は嘘じゃないとわかっていたから、その日以来泣くのをやめた。蓮が戻ってきた時に強くなって見返してやる、と刀を再度持つ決意をした。

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