この世界の片隅に【土方十四郎】 (ページ12)

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十二ページ12

鈍器で殴られた衝撃、なんて言葉を聞くけどさっきの出来事はそれに値した。現にその後のことは何も覚えてなくて、次に意識がしっかりした時、私は十四郎ちゃんにパトカー内へ放り込まれていた。体に感じた痛みで頭がしっかりしてきた。ゆっくりと体を起こせば、車内はなんとも言えぬ雰囲気に包まれていた。

運転席に座るザキちゃんはハンドルを握り締めたまま俯いていた。なんて声を掛けていいのか分からず私は目を逸らした。目の前から舌打ちが一つ落とされる。直後にエンジンがかかる音がして、ゆっくりと車が動いた。

窓の外を眺めるように目を動かす。流れるだけの風景に溜息が漏れた。

「A」

十四郎ちゃんに名前を呼ばれて顔を動かせばサイドミラー越しに目が合った気がして、目を逸らしてしまった。どうしても今は顔が見れない、今の私は酷い顔をしているに違いないから。それを隠すように口を開いた。

『…なんでだろうね』

やっとのことで紡いだ言葉は問い掛けになってしまった。握り締めた掌に痛みが走る。開けば爪が食い込む程握り締めていたらしくその部分だけ赤くなっていた。

「テメェの気持ちは痛ェくらい伝わってんよ」

「でもAちゃん」

『分かってるよ』

その先を聞きたくなくてザキちゃんの声を遮った。ルームミラーに映るザキちゃんの目は何処を見ているのか分からないが、その目が潤んでいるのだけはわかった。私だけじゃないと分かっていた、分かっていたけどこんな形って…とまた掌を握り締める。

そんな私達を見てか十四郎ちゃんが舌打ちを漏らす。
彼を見ればいつも通りの真顔を突き通していて、けれど長年一緒な私からすればそれが無理をしているのは一目瞭然で。でもそんなこと口に出せるわけもなく鏡越しの彼を見つめていればそっと口が開かれた。