3/深淵に潜む ページ3
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深く深く、ほんの少しの光もほんの少し先も何があるのか見えない海底。そこに海の魔女は潜む。魚達は必死にAに引っ付いて追い掛けるが、初めて訪れようとしている魔王の巣窟に怯えもあり、遅れを取ってしまう小魚も少なくない。
そうして、魔女の城に辿り着いた魚達は少ない、Aは彼らの気を汲み取って、外で待ってるように伝え、薄暗い家の戸を叩き、中へと入っていった。
「冥冥、お願いがあるの」
「久しぶりだね、人魚の姫君」
「ええ、久しいわね」
「それで?」
ぼう、と明るくなった部屋。天井からぶら下がる黒いシャンデリアには海の中だと言うのに蝋燭に火が灯されている。彼女が魔女である証拠だ。
優美に口角を歪め、髪の隙間から覗く瞳は私がこれから言うことを見透かされているようだ。生唾を呑み込み、ゆっくりと彼女の前へと近寄り言葉を紡ぐ。
「私を人間にして欲しいの」
「懲りないね、人魚ってのは。それとも、妹の所に逝きたいのかな?」
Aの言葉を聞き、冥冥は忽然と姿を消した。かと思えば、娘の背後に彼女は現れ、ぬるりと背後から首に手を滑らし爪が喉仏にあたる。怖くて仕方ない、今すぐ叫んで逃げ出したい、娘は本能的に身体で冥冥を拒んでいたが、一度呼吸を整え落ち着きを取り戻す。
「妹には…確かにまた会いたいけれど、今は陸の人間に会いたい殿方がいるの。もう一度会えたなら、死んでもいいわ」
Aの言葉を最後まで聞き入れると冥冥は手を離し、Aの前に立つ。冥冥は笑いもせず真顔でAを見つめる。Aも負けん気で見つめ返すと、冥冥はふ、と笑う。
「そうだね、31日間…一月かな。人間にしてあげよう」
「本当…!ありがとう、嬉しいわ…!!」
ホッと、胸を抑えて安心してAは息を吐く。が、ただし、と冥冥は続ける。
「対価は君の美しい瞳だよ。安心して見えなくなるわけじゃないからね。
あぁもちろん、私が欲しいわけじゃない、私は美しいからね。君の妹の声を頂いたのも私のためじゃない。
君達に
Aは少し狼狽える。瞳は誰よりも自分が勝っていると自慢できるし、この瞳は神様からの授かり物と言われていて、魔法の流れや妖精達の声が視える。陸では六眼と呼ばれているらしい。
それでも、あの方に会えるなら見えなくなることなんてちっぽけな事だと気付く。
「分かったわ、」
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作者名:愛之助 | 作成日時:2021年4月24日 22時