2/燦爛たる ページ2
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翠の国と碧の国の間に広がる大海には人魚族がいる。そのうちの外界に人一倍興味がある娘がいた。彼女は美しい眼を持ち、歌を歌うことが好きで人魚族の中で1番と言える美声を持っていた。
彼女は、先日助けた人間の男に想いを馳せていた。魚達がぼう、と海面の方を見上げてうわの空になっている娘の頬をつん、とつついたり目の前でばしゃばしゃと少し泡を立ててやるとやっと彼女はハッとして、柔らかく微笑んで魚達と戯れる。
「どうしたの、Aさま」
「お父さんに怒られて、悲しいの?」
彼女魚達の声を聞いて、可笑しそうにふふと笑う。魚達の言う通り、彼女は昨晩父に人に関わったことを怒られてしまった。人魚を狩ろうとする人が存在するからである。
そうして、彼女は魚達を連れて海面へと顔を出した。魚達はだめだよ、怒られちゃう、と娘を止めるが、娘は大丈夫、少しだけだもの、と魚達を誘う。
「素敵な殿方が居たの」
高貴な人なのは分かった。そして、彼が翠の妖精達に祝福された特別な人。彼女は目を瞑って、その姿を思い返す。胸が踊るように高鳴る、もう一度彼に会いたい、初めて感じるこの感情に興味を示した彼女に気付いた魚達は困る。
「人に恋をしたらだめだよ!」
「やっぱり恋なのね…!また会えないかな…」
「陸に居すぎると干からびちゃうから駄目!」
「そうね、でもどうしても行きたいの…あっ、そうだわ…!魔女に人にしてもらえばいいのよ!」
どんどん悪い方向に進んでいってしまうAに魚達は途方に暮れる。これだけ、魚達が必死に止めるのも焦るのも理由がある。もちろん、人魚達の中でそう忠告を受けているからでもあるが。
「Aさま、妹さまがどうなったか忘れたの?」
魚達の嘆くようなその言葉に、Aは悲痛な表情を浮かべる。彼女は6人の姉妹の長女で、彼女は21歳のときに末の妹を亡くしている。それはつい去年の話である。最後までAを含めた姉達は妹を救おうと、美しい髪とナイフを魔女に交換して貰ったのだが、結局妹は想い人を傷付けることなど出来ず海の泡となって消えた。
魚達はそれを知っていて注意をし続けていたのだ。
「うん…そうね。でも、あの子の気持ちが多分分かった気がする、とても素敵なことよ」
「だから、私は魔女に会いにいくわ」
彼女の意思は強く、魚達はこれ以上引き止めるのも彼女に失礼だと気付く。心配そうに彼らは言った。
「僕たちも一緒に行くよ」
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作者名:愛之助 | 作成日時:2021年4月24日 22時