【２０６】 ページ20
怒りなんて覚えるより先に困惑が勝り、それでもみっともない真似だけはしたくないと、強がる様にカイ君から目を逸らす事はしなかった。本当はこの状況が安心から程遠い事に怖くて不安で堪らない。けれど、泣き言も弱音も、みっともなく泣き喚くのも焦凍君の前だけで良いと「怒ってないよ」と、何とか絞り出した声は情けなく震えていた。
そんな私を見透かす様に小さくｸｽﾘと笑ったカイ君は「声、震えてるよ？」と、言いながら軽く私の袖を掴むと、明かりのある部屋まで連れて行く。すると、そこには意識を失う前に見た気怠げな青年が煙草を咥えていて、私を見るなり「まぁ、そう警戒すんなよ」と、白い煙を吐く。
「別にカイだってアンタを取って食おうとしてる訳じゃねぇし、俺等もアンタに危害を加えるつもりはこれっぽっちもない」
「……私を攫っても得になる様な事は無いです」
「だろうな。寧ろ、厄介事を招くだけだって事も理解してる。けど、カイはそれでもアンタを選んで此処に連れて来た」
青年は灰皿に煙草を押し潰すと「んじゃあ、そろそろ行くわ」と、部屋から出て行く。それを目で追った時、ソファーに私のショルダーバッグがある事に気付き、取りに行こうとするけれど、カイ君に「まぁ、座りなよ」と、別のソファーに引っ張られる。
「何の説明もしないまま連れて来た事は謝るよ。でも、これだけは分かってほしいんだ。全部、Aお姉ちゃんの為なんだ」
「……私の為って、なに？こんな誘拐紛いな事して、それで私の為だって言われても納得出来無いよ」
考えれば考える程、カイ君が分からなくなっていく。このホテルにしてもそうだ。とても子供が借りられる値段の部屋では無いだろう。それをさっきの青年が出したにしても、それをするメリットが分からない。
「ボク……いや、もう猫被っても仕方無いから素で話すけど、Aちゃんはこの街のヒーローがどんな奴か知ってる？」
「知らないけど……でも、この街をどうにかしたいから皆に応援要請を出したんじゃ……」
「それ逆だから」
そう言うとカイ君はこの街のヒーローの事を話してくれた。ヒーローの事だけでは無く、警察についても耳を疑いたくなる様な事をまるで歌う様にｻﾗｻﾗと告げて来るので、全く理解が追い付かなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 146人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：パル | 作成日時：2022年4月2日 23時
