【２３１】 ページ45
何も出来無い事と何もしない事は違う。焦凍君は何もしなくて良いと言ってくれたけれど、それが焦凍君に負荷を掛けているのなら、私は出来る事をしたい。援護なんて芸当は私には出来無いけれど、せめて焦凍君が前だけに集中出来る様にする事くらいは私にだって出来る筈だ。
「焦凍君、私……焦凍君が勝つまで翼に隠れてる。だから、もう動いて良いよ。私の事は気にしなくて良いから……行って」
そう告げるけれど、焦凍君は動かなかった。代わりにﾌｯ……と、笑みを零した焦凍君は「惚れた女の前でくらい、格好付けさせてくれ」と、向かって来る礫を氷壁で防ぐ。
「っ、そんな事言ってる場合じゃ……！」
「大丈夫だ。これで終わる」
「え……」
道を塞ぐ様に一際大きな氷壁を出した焦凍君。その時、氷壁の向こう側から「轟君！清水さん！」と、私達を呼ぶ緑谷君の声が聞こえて来たのだ。
「緑谷！そっちは頼むっ！」
「任せて！」
氷壁の向こうから戦闘音が聞こえて来る。緑谷君だけでは無く、爆豪君もそこには居るのだろう。先程から爆豪君の暴れている声や個性の音がひっきり無しに響き渡っていて、焦凍君は「間に合って良かったな」と、緑谷君達が来る事を分かっていたかの様に話す。
「皆が来るって、知ってたの……？」
「いや、俺達が旅館で待機する事は伝えてたからな。その方角から何かしら物騒な音が聞こえれば駆け付けて来るだろうとは思ってたが」
信頼というものを改めて目にした瞬間だった。緑谷君達ならこう動くだろうと、それを見越して防戦に徹し、キオさんの砲弾で何度も氷壁を砕かせ、音を周囲に響かせていたのはこの為だったのだと、私を守りながらそれを考えていた焦凍君の手腕に驚かされる。
「わりぃ……怖がせちまったよな」
「う、ううん。怖くはなかったよ……？」
ただ、私は焦凍君を信じ切れていなかったのだと、そう思い知らされただけだ。私が居るせいで焦凍君が負けてしまうのかも知れない、怪我を負ってしまうのかも知れない。この状況を打破する事など出来無いと……私は恐怖よりも不安で一杯だった。
信じてあげられなかった。守ろうとしてくれる焦凍君が傍に居ながら、不安で一杯だったなんて失礼にも程がある。
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作者名：パル | 作成日時：2022年4月2日 23時
