ドライブの話 #柿原side ページ39
気分が悪い。今日の現場は最悪だった。
音響監督が若手に当たり散らしてアフレコが押した。前から悪い噂は聞いていたけれど……。主に被害にあっていたのは村中だ。イライラしながら愛車を運転していると、そんな村中の背中を見つける。横を通り過ぎて、路肩へと車を停めた。
柿原「ひーめ」
窓を開けて声をかけると、暗い表情をしていた村中の顔が少しだけ綻ぶ。
『柿原さん!』
とこちらへ駆け寄ってきた。自分のせいでアフレコが長引いたと思っているらしい村中は急にまた表情を曇らせ『あの、今日は……』と謝罪の言葉を言いかける。それを遮って「乗って」と言うと、村中は『え?でも……』と戸惑った様子を見せた。
柿原「ここあんまり長く停めてられないから。早く!急いで!」
人間急かされると、判断が鈍るもので、村中は慌てて助手席に回り、車に乗り込む。村中がシートベルトを締めたことを確認すると、俺はすぐに車を発車させた。
柿原「びっくりした?」
『びっくりしましたよ。まさか柿原さんが運転する車の助手席に乗る日が来るとは』
柿原「サプライズ成功〜。さぁて、どこ行きたい?」
『え?!』
驚いている村中に、俺は「デートしよ」とウインクした。
少し車を走らせたところで村中は
『今日はご迷惑おかけしてすみませんでした』
と頭を下げる。
柿原「あー、うん。なんていうか、災難だったね」
『本当、申し訳ないです』
柿原「なんかいろいろ噂はあったからねぇ」
村中は苦笑いしながら、
『物言いがキツイとは聞いていましたけど、さすがに今日のはちょっと泣きそうでした』
と言った。
柿原「泣けばよかったのに」
『泣いたら面倒じゃないですか』
柿原「監督は姫を泣かせたかったんだと思うよ」
村中は急に怪訝そうな顔になり
『……私、そんな感情が希薄に見えてます?』
と聞いてきた。
柿原「いや、そうじゃなくて。あの監督は若手を泣かせるのが趣味みたいなもんだから」
なのに、どんなに怒鳴っても村中が泣きもせずに食らいついてくるのが、余計に腹立たしかったのだろう。村中としては監督のディレクションに応えようと必死に頑張っていただけなのだが、その村中の真面目で努力家なところが裏目に出たことになる。
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作者名:ちとせまる | 作成日時:2019年12月20日 17時