【wrwrd!】総統の女

外回り3 ページ9

そういったAは会社の外に出て、傘を広げる。
...言わんとしている事はわかったが、本当にそれでこいつはいいんだろうか。

「グルさんさえ良ければ、になっちゃうんですけどね」

えへへ、と微笑む姿に、軽くため息をつく。

「寧ろそれは俺が聞きたいくらいだな。
ほら、傘貸せ、お前に持たせる訳にはいかん」

その手から傘を奪い取る時に、重なった掌に独りでに心臓が跳ねる。やめろ、ここで俺がときめいてどうする、気持ち悪いだけだろ。
至近距離で観察できないAは、それでも緊張はしていないようで、なんだかなぁ。という気分だ。

「ふふ、グルさんの方が背ぇ高いですもんね」
「そりゃな、あと女に持たせる男もどうかと思うだけだ。

A、もっと寄れ」

こうなったら相合傘ポイントを貯めていけばいいのではないか？うまくトントンの策に嵌められた気もするが、結局俺にとっては利点だったし、と開き直る。
その細い肩を引き寄せると、壊してしまいそうで怖くなる。

「わ、グルさん...」

小声で何か呟いたようだが、聞き取れない。
個人的にこれまでに無い密着度に緊張している。惚れた女の扱い方はこれであっているのか？そんなしょうもない童貞みたいな考えがチラついて離れない。
こりゃあ深刻だゾ。

「トントンさん、いい人でした」
「そうか。あいつは意思のしっかりしたお人好しだからな、何かあれば頼るといい」
「そうなんですね」
「あと、Aも良かったぞ、２年目にしては上出来だった」
「そぉ、ですか。
えへへ、グルさんに褒められるととても嬉しいです」

その照れ笑いは可愛い。
小さな歩幅に合わせて歩く自社までの距離が、異様に長くて短かった。

＊閑話→←外回り2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す