【wrwrd!】総統の女

目敏い男2 ページ38

翌日、会社に行くとやはりAの姿はなく。
ふむ。これは早く帰るべきだな。



「グルちゃん、はやない？」

そんな声をかけてくる仕事に塗れた大先生はスルーしてもええよな。

まぁ、そこまで急いでいるわけでもないし、いいか。

「A、風邪ひいただけや」
「そやかい。

......寝込み襲ったらあかんで！」

ふん、と思わず鼻を鳴らす。
その間にこめられた大先生の気持ちなんて、既に把握している。

「お前やないし襲わんわ、仕事のミスは許さへんからな」

ひどい〜と情けない声を上げるのを無視して社を出る。半休が取れるくらいには忙しくない時期でよかった。

足早にAの家まで向かう。ついでに寄ったコンビニで色々買うが、会計後の袋を見れば浮き彫りになる、自分の過保護さに笑ってしまいそうだ。

既に手になじみ始めた合鍵は軽い音を立てて開く。シェアハウスだけど日中に相手は居ないと言って渡された鍵は、確かに遭遇などないときにしか使わないものだった。

寝室を覗けば、暑さか寒さか、身悶えるAがいた。
どうせ電気代でも遠慮してエアコンを付けていないのだろう、顔を突っ込んだだけでわかる暑さは病人には苦しかろう。

ため息をこぼしながら窓を開けば、涼しい風が差し込んで、エアコンよりは病人に優しく室内温度を下げるだろう。

そっとその額にかかる髪を払えば、軽い唸り声と共に、潤んだ瞳が開く。
一瞬びくりとしてしまうほど扇情的なそれは、彼女の苦しみと同価値か。

「今に涼しくなる、薬は飲んだか？」

ぐるちゃ...?と夢見心地の声は呟くき、本当に夢だとでも思ったのか、伸ばされた手のひらが俺の頬を撫でる。

指先まで熱い、さては薬どころか飯も食ってないんじゃないか。

「あぇ、グルちゃん...ぐるちゃ...!?」

だいじょうぶか？なんて声がければ、どうして？となかなか会話をしてくれない。

「会社に抜けてきた、ゼリーとか買ってきたから、食べて薬飲んで寝ろ」

う、うん。なんて答える弱りきった姿はすぐ直してやりたいものだ。

「お前、今度から俺の家に来い」
「へ？なんで？」
「看病しづらい」

そっか、なんて思考の行き届かないAは答える。
お前が熱から醒めたら本当の事を教えてやろう、どうして同じ家に住もうなんていうか。

俺の、心の用意が出来たら。

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