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人間の醜悪は地獄をも生み出す ページ43

〜竜胆side〜




私は先生を忘れることが出来なかった。



吉田松陽という男をいつまでも愛してしまっていた。



けれどもその愛は自由を蝕み、心臓を痛めつけるだけだったため、

うんざりした私は何度も何度も何度も、心と記憶(先生)の隔離を試みた。



でもそれは、そんな事はハナから無意味だった。



先生の記憶こそが、私の心を形作る原形、


先生への愛こそが、私の心そのものだったから。




ならばこの苦しみから逃れる方法はたった一つだけ。




心臓を貫き、血の巡りを止らせ、思考を止らせ、心を殺す、つまりは死ぬだけだ。






でも死んだ後、先生に会える保証はどこにある、



先生への愛が消えて楽になるという保証はどこにある、


吉田松陽の記憶を失わないという保証は、



どこにあるというのだ。



だから私は自害しない、できない。



そして、


たった一つしかないかけがえのない命を奪った銀時は、それ相応の罪を償うべきだ。



だから銀時は私の手で殺すと決めた。




そう、言い聞かせていた。自分に。




本当は、分かっていた。



先生を最も愛する私が断腸の思いで死ぬというのに、

命を奪った張本人が、心の中で生きる先生と共に生きていくのが、許しがたいというだけの事を。




本当は、分かっていた。



一番辛いのが、愛する人を失った私よりも辛いのが、


愛している人を自分の手で殺してしまった銀時であると分かってしまったが故に、


それでも尚、先生のいない世界で、重い罪と過去を背負いながら生きていこうとする銀時のその強さが、




羨ましくて、羨ましくて、羨ましくて、



妬ましかっただけの事を。




本当は、分かっていた。




自害できない理由は、彼を殺さなければいけない理由は、



記憶(先生)を失うのが恐かった訳ではなく、因果応報に従って復讐したいという訳でもなく、




独占欲と、嫉妬心、つまりはただのエゴだと言う事を。




自分はそんな醜い生き物だと自覚しても、


私と先生のいない世界で生きる銀時を想像するだけで、

全身の血が沸騰し、心の中に咲いている一輪の青い花がポキリと折れる感覚がするのだ。


それがただただ、苦しくて、惨めで、哀れで、どうしようもなく嫌だった。




だから、


その不快を打ち砕かなければ、




奴だけが生きる世界を壊さねば、




銀時を殺さなければ、




私は死んでも死にきれない、





あの赤い瞳が目に映った瞬間、そう強く思ったのだ。

何もかもがもうどうでもいいと思える瞬間→←失って初めて気付くものは、いつだってかけがえのないもの



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紅狼 - とても良い作品でした!!続きがめちゃ気になります!!更新頑張ってください!応援してます!!!!!! (1月8日 1時) (レス) @page50 id: c1d0e4500e (このIDを非表示/違反報告)
yuki(プロフ) - ストーリーがすごく好きです!!続きが楽しみです。 (2023年3月30日 21時) (レス) id: 17169564a0 (このIDを非表示/違反報告)
らいあ - 言葉が出ないくらいすごい作品でした!!!続き楽しみにしています! (2022年1月14日 17時) (レス) id: 5ed45ad072 (このIDを非表示/違反報告)
常夏(プロフ) - この作品大好きです! (2021年2月5日 22時) (レス) id: 3853130063 (このIDを非表示/違反報告)
みっかぼーず(プロフ) - すごく面白かったです!!ストーリーが良く作り込まれていて尊敬します (2020年4月19日 0時) (レス) id: 90b29dc37c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:のと丸 | 作成日時:2019年10月1日 3時

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