もう誰も知らない思い出、私だけの思い出 ページ25
〜竜胆side〜
しばらくして抱いていた身をそっと離すと、彼はまた朗らかな笑みで訊ねてきた。
「お名前は、何というのですか?」
「私の....名前は.....」
言いかけた瞬間、あの夜の、母の最後の叫び声が脳内に響いた。
その時母が叫んだ言葉は、私の名前だったのだ。
トラウマになってしまったあの声が感覚が情景が、脳にある私の名前を次々とかき消していく。
思い出そうとすれば、甲高い断末魔が脳を劈く。
むせ返る恐怖と気持ちの悪さに耐え切れなくなった私は、その場で嘔吐してしまった。
涙とよだれでぐしゃぐしゃになった顔の私を優しく撫でると、彼はふと立ち上がってそばを離れた。
「あなたの名前は竜胆です。これからは私の一生徒の『竜胆』として生きていきなさい。」
そう言って夕暮れの朱色に染まった彼が私に差し出したのは、近くに咲いていた青紫色の花だった。
「りん、どう?」
「そう、この花の名前ですよ。綺麗でしょう。」
「うん、綺麗。でも、あなたの名前はまだ聞いてないよ。」
「おや、まだ名乗っていませんでしたか、これは失礼しました。」
ふふ、と控えめに笑うと、口角をゆっくりとあげて目が緩やかに弧を描いた。
「私の名前は松陽です。吉田松陽。これからよろしく、竜胆。」
秋風が彼の柔らかい亜麻色の髪を揺らし、あまりの美しさに幼いながらも見とれてしまった。
それから私は松陽先生と共に暮らす事になり、色々とお世話になった。
寺子屋で授業にも参加させてもらえることになり、他の生徒達と友達になったり、学ぶ事の楽しさを知ったりと何不自由ない、どころか、幸せな日々を送った。
そして、日を重ねるごとに私は先生に恋心を抱き始めてることに気づいた。
先生の優しい笑みや、落ち着く声、悠然とした立ち振る舞いや、人柄の良さに恋焦がれてしまった。
絶対に叶わない恋をしながら、募る想いをひた隠しにしながら、私はこのままずっと先生と暮らすのだと信じていた。
けれど、そんな夢のような日々に終わりを告げるのは、なんともあっけなく、突然だった。
一人で夕暮れの田舎町を散歩していた時、突然何者かに視界を奪われ、口元に布を押し付けられた。
恐怖に声も出ず、私は心の中で何度も先生を呼んだ。
しかし届く訳もなく、
布には何か液体でも含まれていたのだろう、そのまま息を吸って私は直ぐに眠りに落ちてしまった。
明白で歴然で、それでいて隠微な『差異』→←〜ここから竜胆の過去編入ります〜
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紅狼 - とても良い作品でした!!続きがめちゃ気になります!!更新頑張ってください!応援してます!!!!!! (1月8日 1時) (レス) @page50 id: c1d0e4500e (このIDを非表示/違反報告)
yuki(プロフ) - ストーリーがすごく好きです!!続きが楽しみです。 (2023年3月30日 21時) (レス) id: 17169564a0 (このIDを非表示/違反報告)
らいあ - 言葉が出ないくらいすごい作品でした!!!続き楽しみにしています! (2022年1月14日 17時) (レス) id: 5ed45ad072 (このIDを非表示/違反報告)
常夏(プロフ) - この作品大好きです! (2021年2月5日 22時) (レス) id: 3853130063 (このIDを非表示/違反報告)
みっかぼーず(プロフ) - すごく面白かったです!!ストーリーが良く作り込まれていて尊敬します (2020年4月19日 0時) (レス) id: 90b29dc37c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のと丸 | 作成日時:2019年10月1日 3時