異世界人と万事屋２【銀魂】

水を得た魚だけではない、魚を得た水だって嬉しいのだ ページ47

〜神楽side〜


一瞬何が起こったのか理解できなかった。


首を掴む両手の力が途端に威力を失う。




「.....」



不意打ちの出来事に声を出そうにも出ない。


今までさんざん爆発しそうなほど高揚していた負の感情が、この抱擁によって一気に萎んだ。




真っ白になった頭では、もう脅し文句も出てこない。


誰も何も言わないせいで木々が揺れるざわめきさえ聞こえた。


するとそんな平和を取り戻したような病室で、


「大丈夫だよ。」


魔法の言葉が聞こえた。



そんな優しい言葉をかけたのは、



私を殺すと言っていたA、


いや、


あのAとは違う、



私が好きな万事屋のAだった。



「怖がらないで....私は神楽ちゃんを殺さないから、ううん、殺したくないから。


だって、好きだから。」


「ァ.....」


思わず声が漏れた。と同時に涙も零れた。


すると滝のように大粒の涙が彼女の肩に落ちた。


背中に回された両手はもっと私を温もりに引き寄せた。


「A.....私.....ゴメン.....ゴメン....」


ようやく開いた口からは、そんな陳腐な反省の言葉を途切れ途切れでしか出せなかった。


優しく背中を撫でられる感覚がする。


(マミーみたい.....)


ふと母の温もりをも思い出した。


「A」


私はもう一度彼女の名前を呟くと、徐ろに体を引いて顔を合わせた。


(あぁ、A、泣いてるアル....


そうアルな、


Aの方が、よっぽど怖かったアルよな....)


さっきまでの自分を殺したい気分になった。


殺されそうになった相手に、


こうして無理してでも笑顔を作る奴が、



あの女なわけない。



私はようやく全てを悟った。


「ゴメン、ゴメンネA、私酷いことしちゃった。


痛かったヨネ...苦しかったヨネ....怖かったヨネ...


もう、許せないヨネ。」


絶対に嫌われた、と確信した私は、


今まで以上に涙が溢れ出た。


するとAは、

まだぎこちない笑顔を繕いながら、


私の涙を両方の親指で、熱を持った温かい指で、

優しく拭ってくれた。


「夜兎族って皆泣き虫？それとも神楽ちゃんだから？」


震える声を無理やり明るい調子で話しかけてきた。


彼女に甘えるように、本音が漏れる。

「私の事、嫌いになったアルか、もう元に戻れないアルか...」


「神楽ちゃんは、どう思う？」


「嫌アル。」


「ふふ、良かった、私と同じだ。」


そう言って顔を綻ばせたAは、もう繕った笑顔じゃなくなっていた。

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