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第六十四幕 ページ18

「飲む…」

とろんとした目つきで湯飲みに手をかけた。
Aは慌てて引っぺがし、立って手が届かない高さまで上げる。

「今回はおわずけ。」

「…ダメ?」

ダメ?などと言われてこれほど破壊力がある人物は世界にどれくらいいるのだろう。
小さいころから可愛がってきた弟だからなのか、その火照った顔と上目づかいはAの胸に矢を刺した。

「…ちょっとだけだよ。」

結局折れたのは彼女のほうだった。
リクオはパッと花が開くような表情で卵酒を受け取り、一口飲んだ。

毛倡妓は感嘆の声を一つもらし、母親のような眼差しで見る。

「おい…何すんだよ!」

「しっ!!リクオ様を安静にしてないと。」

「何であいつは良いんだ?つか、話の途中…「鴆様、空気を読んでください」」

鴆を部屋から追い出そうと背中を押す間もなく、彼は部屋から飛び出た。

「若〜〜すいません!!」

正体は雪女だ。
彼女が鴆を吹き飛ばしたのだ。

「側近としたことが!!
若が学校に来ていないのを知らずに普通に登校してました!!
この雪女、いかなる罰も…」

泣きながらリクオの手に自身の手を添える氷麗。
しかし、リクオの高い体温に耐えられず火傷してしまった。

「つらら〜おかえり。
逆に気づかなかったのある意味すごいね。」

軽い調子で声をかけるAに氷麗は動きを止めてジッと見つめた。
また、リクオ絡みで怒られるかと思いAは肩を竦めた。
しかし、彼女の反応は予想と違ったものが返ってきた。

「…怪我はどう?痛みは?」

珍しく気にかけるような態度に困惑しつつ、至って元気であることを伝える。
いつもなら呆れた様子で終わるのに、氷麗は不審の目で直視する。

彼女がなぜ、このような表情になるのかをAは知っていた。

「…氷麗。リクオが喉乾いてるみたいだから白湯を持ってきてあげて。」

「ハッ!そうなのですか?
ただいまお持ちしますね!」

思惑通りに、リクオのことになると彼女はそちらを優先した。
部屋を出て台所に向かう彼女を見届ける。
再び二人きりになって、それまで沈黙を通していたリクオが口を開いた。

「ねえ、さっきの氷麗。
なんか様子が変じゃなかった?」

「そお?気のせいじゃない?」

Aは桶の水にぬれたタオルを絞って、リクオの額に乗せた。

「あとで氷麗が氷嚢を作ってくれるはずだよ。
今はしっかり休もうね」


彼には知られたくない。その一心だった。

少女には今もなお、癒えない深い傷が刻み込まれている。

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桃子(プロフ) - めっちゃ面白くて好きです!!忙しいと思いますが更新頑張ってください! (2021年5月15日 22時) (レス) id: f758fcdb57 (このIDを非表示/違反報告)
氷麗 - とっても面白いです!色々忙がしいと思いますが、更新頑張って下さい!p(^-^)q (2020年8月6日 10時) (レス) id: 0b4aa008b9 (このIDを非表示/違反報告)
レモンティー(プロフ) - みいらさん» コメントありがとうございます!とても励みになります( ;∀;)ノロマ更新ですが気長にお待ちいただければ幸いです。今日の夜に更新しますね! (2020年6月23日 12時) (レス) id: a8c312a3ba (このIDを非表示/違反報告)
みいら(プロフ) - とっっても面白いです!更新頑張って下さい!! (2020年6月23日 10時) (レス) id: 8b1d0909e8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:レモンティー | 作成日時:2020年5月28日 19時

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