第三十八幕 ページ41
「リクオはさ…どっちのリクオが本物なの?」
夜の彼に抵抗感があるわけじゃない。
だが奴良リクオという一つの身体に二つの人格が存在していて、それぞれ考え方も意思も違う。
現に、夜の彼は昼とは別に三代目を引き継ぐ意志がある。そんなの、混乱するに決まっている。
理屈で説明できることではないと分かっていても、答えを求められずにはいられない。
私はあなたとどう向き合えばいい?
これは、人間の私には易々と受け入れられない問題なのだ。
「…………ああ、なるほどな。」
何かを察して、伏せていた目を開ける。
彼の小さな変化に私もチラリと見た。
蛇太夫を切ったあの鋭く紅い眼光は無い。
____そこにあったのは、小さな灯火が揺らめくような、暖かくて優しい紅い目だった。
同じだ。
羽織りをかけてくれた、あの時と。
「ビビるこたあねぇよ。」
「ビビってなんかないもん。」
ムキになって言葉を返す私をほくそ笑むリクオ。
「姉ちゃんの目にオレはどう映ってる?
今は妖怪、昼は人間。それだけが真実だ。」
彼の瞳を見ていると、硬く閉じた心を擦り抜けて知らぬ間に
まさに、ぬらりくらりとした生き様。
もう、彼に対する警戒心はなくなっていた。
「ただ一つ言えることは、オレはオレだ。
だからあんたが納得いくまで焦らずに、ゆっくりオレを見ていけばいい。
…これからはもっと長くいられるんだからな。」
目は口ほどに物を言う。
心配することはないと言われているようなその綺麗な紅に、私はまた魅了されていた。
わかっているはずだ。
彼は奴良リクオ以外の何者でもない。
「ううん。その必要はないよ…。
今、答えがでたから。」
私は立ち上がってリクオの頭を撫でた。
ほら、この髪質だって昼の君と同じだ。
「ごめんね…君があまりに立派な姿で現れるからびっくりしただけなのかも。
三代目を継ぐことも応援してるよ。」
さらに、ヨシヨシと愛でてやるとリクオは不機嫌な顔をした。
「チッ、いつまでも餓鬼扱いかよ…。
てか、座ってないと落ち」
途中まで言いかけたところ、朧車は急な右折をした。
バランスを崩した私はなす術もなく、彼の胸に飛び込んだ。
「言わんこっちゃない。」
「いやーごめんね?」
と反省の色も見せずに笑っていると、リクオは私の体制を直し、後ろから抱きついた。
その意図が理解できず、私は頭だけを動かして後ろのリクオを見た。
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作者名:レモンティー | 作成日時:2020年5月6日 16時