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第三十七幕 ページ40

唐突に目の前の景色は青い羽織りで覆われる。
その羽織りを着た人物は敵の前に立ち塞がった。

「下がれ。」

「リクオどけ「鴆、待って!」」

いつもの彼とは違う低い声色。
顔をあげると銀色の髪が月光に反射しているのが目に映った。

そこからの展開は早かった。
蛇の妖怪はその身を真っ二つに裂かれ、畏れを成した小物の妖怪たちは逃げていった。

鴆や烏天狗、もちろん私も目を見開いて呆然と立つ。

「あんた、誰だよ…。」

「リクオ様…また覚醒なされたのですか。」

姿形の違う彼に、鴆は驚きを隠せなかった。

「よう、鴆。
この姿で会うのは初めてだな。
…久しぶり、姉ちゃん。」

私よりもずっと背が高く、顔立ちも凛々しい。
同じ時間(とき)を刻んで育ったはずなのに、彼は以前より大きく見えた。

「うん…。久しぶり。」

鴆は四分の一は妖怪の血が混ざっていることに納得して、彼との義兄弟の盃を望んだ。

リクオは持ってきた酒瓶を手に、赤い盃の上にとくとくと注ぐ。

「鴆は弱え妖怪だかんな。
オレが守ってやるよ。」

「ハハハ、はっきり言うな…夜のリクオは。」


二人は片腕を交差し、盃を同時に飲んだ。


(おしい…朝になるとまた戻られてしまうのか…)

「ねえ烏天狗。」

「わかる…わかっておる。
お主のその複雑な気持ち、拙者も同じだ。」

「本当?理解してくれる?
どうしたらいいのかな私。」

(未成年の飲酒を見過ごすこの気持ちを。)

・・・

五分五分の盃を無事終え、私達は朧車に乗車し本家へ帰宅する。

これはその道中の出来事である。
私はリクオから突き刺さるような視線を送られていた。


「なあ。姉ちゃん」

「何?」

「…何か遠くね?」

朧車の中はそれほど広くない。
だから私と彼に妙な間隔が空いており、彼はその違和感を受け取っていた。

「そんな、よそよそしい態度すんなよ。
オレなんかしたか?」

「いやね…そういうわけじゃないんだけどさ…?」


どうしても彼を直視出来ない。
私が知っているリクオは、何か有ればお姉ちゃんって口にして、物腰が柔らかくて、太陽みたいな明るい笑顔を見せてくれて…

とても可愛い、私の弟のような存在。

でも、夜のリクオは全てが一変している。
性格も、口調も、振る舞いも昼とは違う。
まるで知らない男の人みたいだ…。

奴良組の皆からすれば、この立派な妖怪の姿に称賛の声をあげるだろう。

でも、私は…。

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作者名:レモンティー | 作成日時:2020年5月6日 16時

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