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第十六幕 ページ18

酷く重い足取りで家に向かう。
リクオの心は荒みきっており、目の前の景色が歪んで見えた。
屋敷に辿り着くと、主の帰りを一行は迎える。

「若!!お戻りに…」

いの一番に雪女が近づくと、リクオの顔を見ては表情を曇らせた。

どこまでも広がる闇のような暗い瞳。
固く閉じられた口。
絶望感の漂うその雰囲気に、思わず後退りをする者もいた。

クラスに妖怪の話をして拒否された時とは比べものにならない。
これはただごとではないと悟った雪女はリクオの肩を優しく掴み、心配の気持ちを寄せて尋ねる。

「若、一体どうされたのですか。
また、学校で何かあったんですか?」

「何!?若をいじめる奴でもいるのか!!
このオレが一髪シバいてやりますよ…」

「いや、ここは拙僧が…」


早とちりをした黒田坊と青田坊が学校に乗り込む勢いで豪語する。
その隣にいた首無しは二人を宥めつつ、あることに気がついた。

「今日はAはいらっしゃらないのですか?」

その名前を聞いて、これまで沈黙していたリクオが震える声で言う。

「姉ちゃんは…もういない。
この街に姉ちゃんはいないんだ。」

一同はざわめいた。

リクオの口から語られたのはこうだ。

昼休みに五年生の教室に向かうと、そこのクラスメイトがAについて教えてくれた。
そして彼女が今日この街を離れ、転校することを知ったのだ。

ショックを受けたリクオは、授業を抜け出して会いにゆこうとした。
しかし、彼は彼女の家の場所を知らない。
今日ならまだ…という小さな希望も途絶える。

今は黄昏時。
もう彼女は遠い何処かへと引っ越し、自分の手の届かない場所にいるのだろう。

そして、その行方はわからないまま。
これからも、ずっと。

それがあまりにも辛くて、苦しくて、寂しくて。
張り裂けそうな胸を押さえ、想いは爆発した。


「ボク、姉ちゃんと昨日喧嘩しちゃったんだ…。
姉ちゃんに八つ当たりして、絶交するぞなんて嘘も言っちゃって…傷つけた…。」

それまで俯いていた顔をあげる。
目頭が赤く腫れ上がる。
その大きな瞳から大粒の涙がぽろぽろと落ちてゆく。

「ねえ、姉ちゃんは…ボクのこと…うっ、嫌いになっちゃったのかな?
だ、だがら…転校のことも、何も言ってくれなかったんだ!
嫌だ…嫌だよ姉ちゃん!!」

縋るように雪女の袖を強く掴むリクオ。
慰める言葉など見つからなかった。
深く傷ついた心は時で癒すしかない。

そんな時だった。

「そうでもないようじゃぞ、リクオ。」

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作者名:レモンティー | 作成日時:2020年5月6日 16時

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