第9話 ページ13
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目が覚めれば視界に捉えるは見覚えのない天井。
懐かしいにおいが鼻を掠め、気だるい身体を起こすと徐々に意識は清明に。
全くもって昨晩の記憶がない。
入店してから銀時と再会し、奴のアルコールを肩代わりしたまでは覚えている。
「単純に考えるのなら酔った私を彼奴が回収した…ってことになるけど、となるとここは」
辺りを一回り見回せば、気配が2つ。
気配を辿ることは彼女にとって、呼吸をするのと同義。
かつて忍として生きた経験のある彼女の習慣と言っても過言ではない。
なにはともあれ、まずすべきことといえば家主を探すことだろうか。
黙って出ていくことも考えたが、後ろ髪ひかれる思いであったのも確か。
それを彼女が自覚するにはまだ時間を要すだろうが、兎角、男を探し歩くことに決め布団を出て数歩歩いたところか。
障子に頭から突っ込み、突き刺さっている男が1人。
寝ているというよりは意識を失っているように思えるそれを前に屈むと、ピースサインと共にカシャリと写真を1枚撮影しメル友仲間である"沖田総悟"へと転送。
後に、男を起こすべくとりあえず指先でちょいちょいと蹴ってみるわけだが応答はない。
「おーい、銀時。死んだんー?」
どうやらただの屍。
であれば、喉も渇いたことだ。冷蔵庫よりいちご牛乳の一杯でもいただき帰ることとするかと。
冷蔵庫を開け、目的物を探していた時だ。
肩口より喉元を捉えて離さない切っ先に、ドスの聞いた女の子の声。
推測するに最初に感知したもう1つの気配主。
元より背後からの接近に気付いてはいたが、朝から相手にするのも面倒。
というわけで、放置した結果今に至るわけだが。
「泥棒アルか。うちの冷蔵庫なんて漁ったところでなんの収穫もないアル。ここに入ったのが運の尽きだったな、この泥棒猫が!」
それはそれはお怒りの様子の少女に特に動じることもなく、手元のコップに手を伸ばしいちご牛乳を注ぎ。
飲み干せば、彼女へと持たせ"御馳走様"とにこりと笑顔をむければさすがの少女も唖然とせざるを得ない。
この状況下を理解できていないのか。
将又それを超える馬鹿なのか。
「銀時。私帰るから、じゃあね。お嬢さんもお邪魔しました?」
「え?銀ちゃんの知り合…ちょっ、待つネ。銀ちゃん、起きるアル!行かせていいアルか?!」
出ていく女の背を目にすれば、行かせてはならないと本能が悟る。
少女の声は女には届かず。その姿は段々と小さくなっていくのだった。
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