gin and tonic [kym×hkt] (ページ21)

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「大我さん。」

出勤前の俺と、その目の前に立つ彼

俺、賄い(のようなもの)食うために1時間早く来たのに。なんでもういるの。店自体はあと１０分でオープンなわけだけど

「...店前同伴しようよ。同伴料つく？」

店前同伴。飯や買い物などの用事をせず、店の近くで落ち合い、そのまま同伴として同時入店することだ。

「つきません。そもそも店にその制度ないですね」

「あ、そうなの。じゃあここで待ってても無意味だったわけか。まぁもう来ちゃったし、開店まで待つよ。...これ、あげる」

スッ、と差し出された一万円札

「もらえません。」

「だめ。返さないで」

「や...困ります」

「俺が北斗くんのこと好きってみんなに相談しまくるよ？」

「それはあの、周りの目とかもありますし」

「...ね、嫌なんでしょ？じゃあ、もらってね〜」

俺にそれを握らせると、2歩ほどさがって店が見える道の隅のポジションへ

「んじゃ、ここで待ってるから。北斗くん準備終わったらまた教えて」
　

ー前回の馬鹿騒ぎの痕跡は微塵もないその場所

「おー北斗、今日まかない希望だしてたよな。やきそばかチャーハン、どっちがいい」

バックルームに入るなり、マスターが訊ねる

「チャーハンで」

「チャーハンな、任せとけ。うまい焼き豚を客からもらったんだよ」

「てか今日マスターが作る感じなんですね。時間大丈夫ですか？あと５分で開店ですけど」

「いいのいいの、オープンは樹いたら大丈夫」

ドア一枚隔てて向こうにお洒落なバーがあるとは思えないめちゃくちゃいい匂いがバックルームに広がる。匂いが制服に移らないか心配な俺をよそに、そんなんシュッシュしときゃいいんだよシュッシュ！と豪快なのか雑なのかわからないマスターに思わず笑ってしまう