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「――というわけです。今までお世話になりました、これからも頑張って下さい。陰ながら応援してます」
翌朝の朝食の席で、約束通り辞めると皆に告げても、特に何の反応も返ってくることはなかった。まあ、そうなんだ、程度にしか思ってないということだろうけど。朝ご飯も食べ終えたので食器を片そうと席を立てば、隣から腕を掴まれた。
「えっと……？ 佐久間先輩、どうかしましたか？」
「Aちゃんの本当の気持ちは、どうなの？」
佐久間先輩から真剣な眼差しで見上げられて、少しだけ言葉に詰まった。そんな私を見て、他の人達も次々に口を開く。
「Aは素直じゃない子ネ」
「照明してる時のA、凄く楽しそうだったけど」
「Aが本気で辞めたそうには見えない」
「辞めるなら監督はお前公認の俺の嫁にする」
最後に関しては許すはずもないので睨めば、意外にも碓氷はあっさりと目を逸らした。どうなの、と念を押してくる佐久間先輩達に負けて、再び椅子に座る。
「分かりました、きちんと私の気持ち伝えますね。本音隠して抜ける方が失礼でしたよね、すみません」
そう一言だけ前置きして、昨夜お姉ちゃんに言ったことを話した。シトロンさんから聞いた限りだと、春組全員私が父親を嫌ってるのは伝わっているらしいので話が早い。
「でも照明は嫌いじゃないんだよね？ 舞台だって好きなんだよね？」
「それは、まあ……。でも、こんな気持ちの人間が裏方にいるのどう思います？ 自分達は必死なのに、内心こんなことを思っている人が劇団に居たら嫌でしょう？ モチベだって上がるもんも上がりづらい。私が父親を嫌う気持ちは多分この先も消えることはなくて、劇団の人といくら一緒に時間を過ごそうとも、この劇団を心の底から好きになれないと思います」
再び黙ったみんなを見て、流石に納得しただろうと席を立とうとした。その時、茅ヶ崎さんが口を開いた。
「あのさ、俺がここ来た理由知ってる？ ゲーム環境求めて、だよ？ 演劇が好きでも何でもなくて、一回は此処を抜けようともした。そんな俺と比べたら、Aは十分やる気あると思うけど？」
「それに、Aは時々ワタシたちにもアドバイスしてくれたヨ。劇団を思う気持ちが無いわけじゃないネ」
茅ヶ崎さんの言葉をシトロンさんが引き継ぐ。そして気付いた。この人たち、もしかして私を引き留めようとしているのだろうか、と。
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作者名：あだしの。
| 作成日時：2020年11月3日 22時
