第九十三訓「策士 策に溺れる」 ページ43
伊東には兄が居た。
兄は体が弱く、両親は常に兄に付き添って看病をしていた。
そんな両親に少しでも自分を見てもらいたくて、沢山勉強をし、試験では常に高成績を収めていた。
しかし両親の目は兄から離れる事はなく、勉強が出来、師に褒められる伊東に嫉妬した同じ学問所の生徒に暴行まで受ける始末。
そんな奴らにも負けじと道場に通い始め、そこでも高成績を出すが、自分に寄ってくる者など誰も居なかった。
友人も出来ず、親に自分の生も否定された伊東が望んだもの。
それは────………
滑り落ちていく伊東の手を、間一髪で近藤が握る。
「な…何をしている。君は…今…何をしているのか…わかっているのか」
「すまねェ…俺ァ、アンタの上に立つには足らねェ大将だった。先生、俺ァ………兵隊なんかじゃねェ、ただ肩つき合わせて酒くみかわす友達として、アンタにいてほしかったんだ」
自分が一人なのは自分以外の人間が無能だから。
自分は何も悪くない。
悪いのは、自分を理解出来る程の知識を持っていない他人。
人から拒絶されるならば、自分から拒絶すれば傷付かないし、恐いものはない。
しかし、他者に認められたい。
そんな矛盾を抱え、いつの間にか忘れていた自分が本当にほしかったもの。
地位や名誉、武功でも才能でも、自分を認めてくれる理解者でもない。
自分が欲しかったものは、もうとっくの昔にそこにあった。
第九十四訓「大切なものは見えにくい」→←第九十二訓「策士 策に溺れる」
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作者名:憐 | 作成日時:2014年3月12日 2時