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六、仕事、あるいは欠けた常識と頓珍漢な探偵たち ページ7

事業縮小により孤児院を追い出され、斃死寸前だったと語った敦。だんだんと話が暗い方面に行くにつれて、詩房は彼の地雷を踏み抜いてしまったことを知る。

「ご、ごめん! 敦。
こっちこそ無神経な質問だった」

うっすらと気の弱い笑みを浮かべて重い過去を語らせてしまった敦に頭を下げる。そこで、彼もまた「いや、こっちこそごめん! 僕が先に君の出身を聞いてしまったから」と返したものだから、危うく謝罪大会が始まりそうになったところで、太宰が口を挟む。

「それにしても、薄情な施設もあったものだね」

確かに太宰の云う通りだ。仮にも児童養護施設だ。真っ当な理由が有ったとしても、敦一人を放り出すなんて有り得るだろうか。
初対面の人間の地雷を踏み抜いてしまい慌てた思考が、太宰の言葉により正常に戻るとこんな疑問が湧き出した。だが、これ以上辛い過去を掘り下げることはあるまい、と口を噤む。

「おい太宰、俺たちは恵まれぬ小僧に慈悲を垂れる篤志家じゃない。仕事に戻るぞ」

「お二人は・・・・・・何の仕事を?」

度々、話に登場した彼らの仕事について敦が問うと、太宰は形のいい唇を吊り上げた。

「なァに、探偵さ」

発された言葉に敦はぽかんとし、詩房は耳慣れない響きに疑問符を浮かべる。自分たちが、斬った張ったの荒事が領分の異能力集団『武装探偵社』だと語り、腰に差した拳銃をちらりと見せる国木田。
『武装探偵社』、軍や警察に頼れないような危険な依頼を専門にする探偵集団。昼と夜の間を取り仕切る薄暮の武装集団。
敦が自身の知っている『武装探偵社』の少ない情報を最大限に引き出していたところで、袖がくいくいと引かれる。
隣の詩房にどうしたのかと問うと、「異能力ってなに?」と囁かれる。施設育ちで世間知らずだと自負している自分でも知っている事に首を傾げる詩房に、敦は思わず目を丸くする。
それ見た詩房は困ったように曖昧に笑って、ごめん忘れて、と彼の耳に口を寄せた。

「あの鴨居頑丈そうだね・・・・・・たとえるなら人間一人の体重に耐えられそうなくらい」

兎に角何かフォローせねば、と口を開きかけた時、前方の太宰の突拍子もない言葉が飛んできて、真剣な雰囲気を見事にぶち破った。

「立ち寄った茶屋で首吊りの算段をするな」

すかさず、眉間に皺を寄せた国木田が口を挟む。頓珍漢な二人のやり取りに、詩房がぷすっと吹き出した。

「そ、それで探偵のお二人の今日のお仕事は」

「虎探しだ」

問うた敦に、ずり落ちた眼鏡を上げつつ国木田が答える。

「・・・・・・虎探し?」

瞬間、敦の雰囲気が一変した。

七、違和感、あるいは探偵の実力と嫌な予感→←五、忘却、あるいは消えた地元と無神経な質問



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犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します! 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています! (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください!応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:犬原 | 作成日時:2018年3月21日 14時

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