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三十二、銃口、あるいは轟音と地を這う彼女 ページ33

「その通りです。失礼とは存じますが、嵌めさせて頂きました。私の目的は貴方がたです」

探偵たちに、一気に緊張が走り抜ける。それを無視して、樋口は携帯電話を取り出した。

「芥川先輩?
予定通り捕らえました。これより処分します」

芥川。彼女の口から発された言葉に、一瞬で指先が冷えた。国木田の忠告が脳裏に蘇った。心臓が跳ね上がる。
唯一の出口には、樋口が門番のように立ちはだかっていた。逃げ場はない。

「こいつ・・・・・・」

「ポートマフィア・・・・・・!」

仲間によって発された言葉。それを聞いても詩房は何が何だか解らなかった。
処分? 処分ってなんだ?どういうことだ?
飛び出す疑問符。何を云っているのか理解できない。
加速する疑問と反比例するように、速度を落としていく思考。
しかし、その意味は次の瞬間に否が応でも、理解させられた。
真っ直ぐにこちらを向く黒い銃口によって。
信じられなかった。
樋口が死の宣告と共に、引き金を引く。
あんな動作で人が死ぬ。頭では分かっていた。
でも、まだ解らなかった。

「我が主の為____ここで死んで頂きます」

鼓膜を突き破らんばかりの轟音と共に、フラッシュマズが詩房の網膜を焼く。
次の瞬間、視界が揺れた。それが自らの身が倒れたことによるものだと気がついたのは、アスファルトの地面に体を叩かれ、神経によって伝達された痛みが脳に喰らいついた時だった。同時に、兄の前に立ちはだかった何か、否、誰かも彼女と同じように、力を失い倒れ込んだ。ナオミを受け止めた谷崎が、混乱を隠せず叫ぶ。麻酔でも打たれたように、がくんと地面に座り込み茫然とその光景を見つめる敦。
詩房は体が動かなかった。そのため、彼女より奥にいた敦には傷一つついていない。
芋虫のように藻掻く詩房の喉から、絹を引き裂いたような叫びが迸る。腹を抑えるも、痛みと混乱は、収まらないどころか加速していくばかりだ。眼球が引っ繰り返りそうになる。
痛みの根源に目を向けると、穴が開き赤い液体を垂れ流す両脚と、黒いセーラー服の色を濃くする右脇腹が見えた。唐突に叩きつけられた光景に、「ひッ」と喉が引き攣るような声が、零れる。
痛いと怖い、その二つが今にも壊れそうな思考回路を席巻している。
その時、混乱のままに言葉を発していた谷崎の後頭部に、黒い銃口が押し当てられた。

「貴方が戦闘要員でないことは調査済みです。健気な妹君の後を追っていただきましょうか」

「あ? 」

その言葉、その視線に、谷崎の何処か、場の空気が切り替わる。
だが、詩房には藻掻くしかできなかった。

三十三、反撃、あるいは季節外れの雪と三度変わる空気→←三十一、違和感、あるいは背徳的な気分と引っかかる名前



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犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します! 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています! (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください!応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:犬原 | 作成日時:2018年3月21日 14時

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