望んでいるの ページ38
帝統がまっすぐ見てくるその瞳を避けて私は接客に務める。
終始飴村乱数は私だけではなく他の女の子も指名しながらコロコロ笑い、夢野は酒を嗜むように飲む。
帝統は、女の子と飴村乱数を適当にあしらいながら、ずっと私を見ていた。
……
まさかの帝統からのアフターの依頼を受けた。
最近はアフターを頂戴することも増えていたが、全て断っていた。
……依頼を受けた時の帝統の顔は前髪で見えなかった。何故か私はその顔を見たいと思ってしまったので、アフターに行くことにした。
お酒も入ってるが帝統は正気に近い……というか、正気であった。
大して飲んでいないのかと思ったが、ここに来る前に相当飲んでいたようなのでそうでは無さそう。
恐らくもう酔いが覚めているのだろうな。
近いお店に入り、軽く食事を頼む。
しばらく沈黙が続き、空気が重い。
「A、ちゃんと飯食ってんのか?」
「えっ?」
「飯。……顔に、前とは違う疲れが見えるぜ。つか、ここ店じゃないんだからもう敬語無しな、あれ距離感感じてしんどいわ」
「……あはは、ごめんね、ありがとう。最近は食べられてるよ」
話し始めると、前のように自然に話せる。
私、本当はずっと帝統に会いたかった。
友達だけど、友達とはまた違うこの関係を手放したくなかったのにな。どうして、こんな風になっちゃったんだろ。
……私何やっても、人間関係も何もかも全部上手くいかないなあ。
「……大学、本当に良かったのか?」
「……うん、もういい。大学に拘ってたっていうか、母親に無駄に拘ってたってだけだから。母親とは家を出てからもう会ってないんだ」
「そ、うか。……俺、お前をここから連れ出せたらいいのになあ」
帝統がそんなこと言うなんて考えもしなくて帝統を見ると、帝統はコップに纏わり付いている水滴を見つめたまま、ぽつりぽつりと話す。
「山田一郎なら、お前を連れ出せるだろうになあ……」
「何で一郎が出てくるの?」
「あ?だって、そうだろ。アイツのが俺より社会的立場があるし、お前を養える。お前だって───」
「っやめてよ」
瞳に涙が溜まるのが分かる。鼻がツンとして、横隔膜が突っ張る。
私は、帝統にそんなこと言われたくない。
帝統にそんなこと言って欲しくない。そうじゃなくて、私は……。
心のどこかでは帝統が、一郎じゃなくて、帝統が、ここから連れ出してくれるのを望んでいるの。
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海老天ぷら - おと姫と愉快なサカナたちさん» ありがとうございます!嬉しいですっ!不定期更新ですが、がんばります! (2021年12月10日 19時) (レス) @page35 id: 8ac8a7e5a1 (このIDを非表示/違反報告)
おと姫と愉快なサカナたち(プロフ) - すごく引き込まれます…更新頑張ってください!! (2021年11月9日 7時) (レス) @page34 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海老天ぷら | 作成日時:2021年1月28日 10時