【ヒプノシスマイク】傷みは隠さない【有栖川帝統】 (ページ33)

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友達だよ。ページ33

母親いい加減にして。早く帰ってこい
母親無視してんじゃないわよ。そっちがその気なら、こっちにも考えがある

スマホを握る手に汗が滲む。

母親には確か裏の社会の人間の知り合いが居たはずだ。

昔、朝起きたら背中いっぱいに墨が入った大男が母親と寝ていた。

その人と今も繋がりがあるなら私の足取りを辿るのは簡単だろう。

いずれ一郎のこともバレて、一郎たちの身が危なくなるかもしれない。

私では彼らを守ることは出来ない。

……それに、結果的にここを出るいいきっかけになった。

……

｢今までありがとう。お世話になりました｣

｢またいつでも来いよー！｣

｢待ってますから、絶対来てくださいね｣

｢うん、ありがとう｣

数少ない荷物を持って二郎と三郎に別れを告げる。

しかし一郎の姿はなかった。朝から依頼が入っていたためだ。

うん、仕方ない。

｢兄ちゃん、別に急ぎの依頼じゃないなら断っても良かったのによー。Aのお見送りのほうが大事じゃね？｣

｢仕方ないだろ、お得意様らしいし｣

｢うん、いいの。一生の別れじゃないし。今度遊びに来るね｣

二郎と三郎は優しく見送ってくれた。

リュックに詰められるだけしかない荷物。

実はもう部屋探しは済んでいる。あとは引越しの作業をするだけ。

といっても、私の荷物はこのリュックに入るだけしかない。だから、今日はこのまま新しい我が家に向かう。

布団はまた後日買いに行こう。今日はリュックを枕にして眠ろう。

硬い所で寝るのは別に平気。あの家ではペラッペラの布団で、ほぼ床で寝てるのと変わらなかったから。

駅を目指して歩く。

すると誰かに腕を掴まれる。

振り返ると一郎だった。息が上がって、肩で息をしている。

｢A……っ、ごめんな、俺、最低な態度とっちまって……今日も……｣

｢ううん、ううん、いいんだ。こっちがごめんだよ。急に押しかけて、相談もなしに勝手に出てくって言って……ごめんね｣

｢いや、いいんだ。……っまた会えるか？｣

｢うん、会えるよ。私はっ、一郎にまた私と会って欲しいよ｣

目が熱くなる。鼻がツンとする。

一郎が笑う。涙でキラキラ瞳が反射する。

綺麗だ。

つられて私も笑う。

……一郎は私にとって大事な大事な、友達だよ。