【ヒプノシスマイク】傷みは隠さない【有栖川帝統】 (ページ22)

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会いたかったからだよ。ページ22

母親から奪った奨学金振込に使っている通帳とずっと隠し持っていた通帳と印鑑を持って、それから最低限の物をリュックに詰め込んで家を出た。

いつも来ていた母親からの鬼のような着信もこんな時になると来なくなる。さすがに笑ってしまった。

ああ、金を寄越さない私は用無しなんだ、態度で示されるとあの女に対する感情がふつふつと湧き上がっては消えた。

……蹲って帝統と会ったあの路地で雨に打たれていたのは、もう一度帝統に会いたかったからだよ。

まさか本当に会えるとは思わなくて、罰が悪くて逃げるようにその場を去った私を許してね。

行き場もなく彷徨っていた私を山田一郎が拾ってくれた。

一郎は高校の同級生だった。

彼は当面の間、仕事と住む所を与えてくれると言ってくれた。今は彼の家で居候をしている。

朝からの仕事をこなすため、早起きをして彼と彼らの弟の弁当を作って朝の準備をし終わった後に電話が鳴った。

充電が無くなってそのままにしていた。そんなスマホをやっと昨日充電をした。

スマホの画面に表示されていたのは知らない番号だったが、なんとなく出てしまった。

声の主は、帝統だった。

帝統の声を聞いた瞬間、胸がいっぱいで張り裂けそうになった。涙が溢れそうだった。

｢Aー｣

一郎の声が聞こえたので、少しの会話の後電話を切った。そのまま電源も切った。

｢親からか？｣

｢いや、違うよ。もうそろそろ出る？｣

｢おう、行くか｣

車に乗り込む。私は免許を持っていないし今まで欲しいとも思わなかったが、人の運転姿を見ると欲しくなるものだな。

｢私も免許取ろうかな｣

｢とったらいいじゃん？便利だぜ、免許証は身分証明書になるし｣

｢だよねえ｣

｢今日の夕飯何にすっか｣

｢もう夕飯の話！？｣

ハハハッと一郎は笑う。

私と一郎は、高校ではそこまで濃厚に関わっていた訳では無いが何故か定期的に昼ご飯を一緒に食べた。

約束していたわけではなく、たまたま。話す内容も特になかったが、心地の良い時間だった。

私もだが、一郎も少し浮いている存在だったので、今思うとはぐれ者同士気が楽だったのかもしれない。

昔から、施設から自立をして弟たちと一緒に暮らすため懸命にアルバイトをしていた彼を尊敬していた。

私も、もっとちゃんと頑張れたら。

一郎みたいに自分の犠牲を厭わなくて、目標を見失わず頑張れたら。

……ああ、私は弱虫だ。

車の窓から動く景色をぼんやりと眺めた。