口 ページ14
殴られることはない。勿論蹴られることもない。暴力はされない。かといって、暴言も吐かれない。
私は、世間一般的に見たらただの母親と暮らす大学生なんだろうな。
何故か物言えぬ圧力を感じ、逆らうことを止め、自分の意見を通したいがために相手に従う。
それが私のこの家での生き方であり、これを誰にも言ったことは無い。楽しげに笑う家族に心の中で毒を吐いて、私の不幸を私自身で舐めた。
ただ、私の不幸は傍から見たらただの不幸中毒になっているだけなのだろうな。
昔数少ない友達だった人間に、家のことを打ち明けたことがあったが、馬鹿にされた。
『それ虐待じゃないじゃん、Aちゃんてそんな親不孝な人なんだ……』
『もっと辛い人だっているんだから、そういうの言わない方がいいよ』
『そんな程度で不幸とか(笑)』
──あれから何日か経った。
青椒肉絲と味噌汁、ご飯を母親に出す。母親はスマホと向かい、口に入れる。
私も同じメニューを口にする。が、あまり食欲がないためつまんだだけで食事を終えた。
「あ、Aお風呂沸かしておいて。私お風呂入ってそのまま寝るから」
「わかった」
荒れた部屋を抜けて、風呂場に行く。この風呂は追い炊き機能はない。水とお湯を調節して風呂に溜める。私はその間に洗濯機を回し、一応洗濯物を畳む。
母親が服をコーディネートする時散らかすため、洗濯物は畳んでもあまり意味が無い。
……
外に出た。
殺伐とした家にいると息が詰まるが、如何せん金がないので外に出てきても行くところがない。今頃母親は風呂に入って寝ているのだろうな。
賑やかな渋谷の路地に入って座る。
スマホで帝統について調べてみることにした。
やはり調べたら、有名だったことがわかった。また夢野は小説家であり、そちらの方でも有名だとわかった。
彼の小説、読んでみるか。
大学の図書館に行くことにした。大学の図書館になら彼の小説くらいあるだろう。その後に夢野に菓子折りを買おう。ただえさえ少ない金だが、くれた恩にはお礼はしなくてはならない。
騒がしい街中を抜けると帝統が居た。帝統も私に気づいておーいと手を振る。
「おう、どうだ?体調は?」
「もう大丈夫。ありがとう。幻太郎さんにもお礼しなくちゃ」
「……なあ、お前って母親と上手くいってねぇの?」
「え」
血の気が引くのを感じた。
私と母親のことを、探ろうとしてる?
どうせまた不幸を比較されて、否定されるんだ。
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海老天ぷら - おと姫と愉快なサカナたちさん» ありがとうございます!嬉しいですっ!不定期更新ですが、がんばります! (2021年12月10日 19時) (レス) @page35 id: 8ac8a7e5a1 (このIDを非表示/違反報告)
おと姫と愉快なサカナたち(プロフ) - すごく引き込まれます…更新頑張ってください!! (2021年11月9日 7時) (レス) @page34 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海老天ぷら | 作成日時:2021年1月28日 10時