コイツ、まじで ページ12
いい香りがして目を開ける。
体を起こすと帝統ではない男の背中。柔らかい茶髪が彼の動きに合わせて揺れる。
私は体を起こして彼の傍に行く。
「あの」
「おや?起きたんですか。どうですか、体の調子は?」
「あ……ありがとうございます、もう大丈夫です。えーっと」
「あぁ、小生は夢野幻太郎です。しがないギャンブラーです、嘘ですけど」
そういって夢野は瞬きをして長い睫毛を動かした。
どうやら彼はうどんを作っているようで。出汁の香りが鼻から抜ける。
「あなたはAさんというようですね。帝統から聞きました、帝統の命の恩人だとか」
「い、いえ命の恩人というか、ただご飯と金を貸しただけで……」
私がそう言うと夢野はそれが彼にとっては恩人になるのですよと言い、出汁の味見をした。
夢野の指示でお椀を取り出して渡すと、そこにうどんを入れた。
「体調が良くなったとはいえ、今日は消化がいいものを食べた方がいいでしょう。ああAさん、そこで寝転がって競馬新聞を見てる男を蹴飛ばしてこっちに呼んでください」
「えぇ……」
寝転がって真剣な顔で競馬新聞を見ている帝統を呼ぶと、「お!メシか!」とキラキラと目を輝かせた。
コイツ、まじでヒモの素質あるな……。
「明日大勝負があんだよ!これ当れば大勝ち!そしたら乱数も呼んでなんか食い行こーぜ!」
「あなたね……そう言ってこの前小生が貸したお金スったでしょう。いつになったら返してくれるんですか?」
「え、帝統、幻太郎さんにお金返してないの?」
「い、いやそれには深ーい訳が……ってかA!お前スマホ!すげー鳴ってたぞ!ホラ!」
帝統は冷や汗をかきながら私にスマホを渡す。夢野と2人で怪訝な顔をしながら、私はスマホを見る。
母親からの着信しかない。分刻みでかけてきていた。
いつもならこんなに私に執着しない。昔、終電に間に合わなくて満喫に泊まることになった時に連絡しなくても何も言ってこなかった。
何か、あったのだろうか。
うどんを食べ終え、帝統が洗い物をしている後ろで私は母親に電話した。
『ねえ1日帰って来なくて何してんの』
「ちょっと具合悪かったから休んでた」
『どこで?まさか男?Aに男なんて出来るはずないか。ていうかさ、私のご飯ないじゃん。昨日から何も食べてないんだけど、早く帰ってきてくれない?』
「あー……わかった」
私はスマホを投げ捨てるようにして電話を切った。
ただ私は項垂れた。
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海老天ぷら - おと姫と愉快なサカナたちさん» ありがとうございます!嬉しいですっ!不定期更新ですが、がんばります! (2021年12月10日 19時) (レス) @page35 id: 8ac8a7e5a1 (このIDを非表示/違反報告)
おと姫と愉快なサカナたち(プロフ) - すごく引き込まれます…更新頑張ってください!! (2021年11月9日 7時) (レス) @page34 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海老天ぷら | 作成日時:2021年1月28日 10時