◆.触れられない熱 ページ3
「……」
図書室。
目の前の机には一人だけ、短い茶髪の頭そのまま机に落とし、ぐっすりと眠る女子生徒。
ぱらぱらと額から溢れた前髪の隙間から、あどけない、しかし整った顔立ちが覗いている。
俺は隣の席に腰かけて、その寝顔を眺める。すうすう、と規則正しい寝息だけが耳に届いた。
待ち合わせに遅れたのは申し訳ないが、たかが十分で寝る、とは……。
白い頬に手を伸ばす。
いつも触れられるのを拒む彼女は、今はいない。簡単に触れられる範囲で、無防備にも寝ている。
触れた指先に、彼女の熱が灯る。
誰も見ていない。
ここにいるのは俺とAだけ、なら。
……きっと、このまま。
指を滑らせて、彼女の小さい唇に触れた。乾燥していて、少し指が引っ掛かる。
すると。
「……ん」
「あ、」
睫毛が震えて、Aが目を覚ます。
むく、と体を起こす。
俺は静かに唇から手を放す。
Aは自分の唇に指で触れる。
茫然としているらしい。
「……A、」
「……轟くん、今、何してた?」
彼女の顔は前髪で見えない。
怒っているだろうか。当然だ、彼女が嫌だと言っていたことをしていたのだから。
「……わりぃ」
「……うん」
彼女はちら、とこちらへと目を向ける。それを見て、どく、と心臓が妙に脈打った。
真っ赤になった顔、困ったように寄せられた眉。それは恥じらいの表情だ。
それを見て、息を呑む。
「……なぁ、やっぱり触っちゃダメなのか」
「え!?
うん、ダメ!」
「おい、静かにしろ」
図書室だということを忘れて叫ぶAに言えば、Aははっとして肩を竦めた。
恥ずかしいだけで、きっと嫌なんじゃない。
だったら。
今までの我慢だって、本当は報われていたはずだ。
伸ばした手で、彼女の頬を包む。
「え、ちょ……」
「先に謝っとく。
わりぃ」
「や、あの……ふ、っ」
彼女の柔い唇に自分のそれを押し付けれる。思いの外熱くて、もしかしたらそれは、自分の方なのかもしれなかった。
2019/9/18 硝子屋
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作者名：風を薙ぐ硝子売り x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年9月16日 23時
