◇.静かな時間 ページ4
涼やかな風が私の長い髪を攫う。辺りに人はいない。静かなこの場所に流れるのは鳥の鳴き声と本の頁を捲る音だけ。
昼休みに中庭の木の下でお弁当を食べながら本を読むのが最近のマイブーム。
今日は気温もちょうどいいし、風が涼しいし、お昼寝でもしようかなっ！……なんて考えていたら。
｢あっ、A！｣
私を見つけて駆け寄ってくる男子生徒。その姿に小さく溜息を零す。
｢やっぱりここに居たのか！｣
｢切島こそ、また来たの？｣
｢おう！Aがちゃんと昼飯食ったか確認しにな！｣
ニカッと眩しい笑顔を向けられて、思わず顔を背けそうになるが、ここで照れて顔を背けては負けだと言い聞かせ、ポーカーフェイスを貫く。好きな人に心配されて嬉しいけれど……バレたら恥ずかしさで死んでしまう。
｢ちゃんと食べたよ。｣
｢それなら良かった！！で、何食べたんだ？｣
｢サンドイッチ、だけど？｣
｢いいなぁ〜｣
俺も食いてー。と言いながら私の隣に座る切島に、何も言わずお昼のあまりのサンドイッチが入ったケースを差し出す。切島は差し出されたケースを受け取り、"A、これ"と問いかけてくる。
｢量が多すぎて食べられなかったの、残すの勿体ないから食べてくれると助かるんだけど。｣
嘘です。本当は切島に食べてもらおうと多めに作ってきたのだけれど、小心者の私にはそんな事言えなかった。そして、自分の顔が赤くなっている事に気づいていなかった。
切島は、真っ赤になった私の顔を覗き込みながら
｢かわいいな｣
と、まるで愛おしいものを見るような優しい顔でそういった。初めて見る切島の顔に心臓が撥ねた。耐えきれなくなって、私は手に持っていた本で顔を覆い隠す。
けれど、本は没収され、顔を覆い隠す物がなくなった。慌てふためく私を切島は突然抱き締め、それからそっと唇を重ねた。
あまりに急すぎて、何が起こったのか整理出来ていない。
｢ごめん、抑えられなかった｣
少し照れながらそう言った切島に私は嬉しくなって、思わず抱き着いて。
｢………切島？｣
｢……ん？｣
｢ 好き。｣
と言って、強く抱きしめる。するとそれに返すかのように切島も私を強く抱き締め、
｢やっと言ってくれた！｣
嬉しそうにそう言った。
そして、私達はお互いの気持ちを確かめるようにもう一度唇を重ねた。
2019/9/19 風薙
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作者名：風を薙ぐ硝子売り x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年9月16日 23時
