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お願い__か。
『お願いしたら宇津宮君の重みは返してもらえるんですか?』
一番重要なところはそこだ。
「あえて断言はできんけど、多分な。切実な人間の頼みを断るほど彼らは頑なじゃないめう。」
『呪いとかとは根本的に違うんですね』
「あの」
意を決したような口調で宇津宮君が言った。
「あの蟹は__今も僕のそばにおるんか？」
「そう。そこにいるし、どこにでもおる。ただし、ここに降りてきてもらうには、手順が必要やけどな」
そうこうしているうちに、3階に到着した。部屋の一室に入る。
入ると、部屋全体に注連囲いが施されていた。
「結界みたいなものめう。二人共目を伏せて、頭を低くするんや」
つまり、ここはもう…
「神前めう」
そして三人で並ぶ。私のときや、トントンのときとは全然対処が違うので少し緊張してしまう。堅苦しい雰囲気というか、この雰囲気そのものに、おかしくなってしまいそうな感じだ。
身が竦んで自然と身構えてしまう。状況。場。
『そういえばオスマンさん、トントンのときみたくグルちゃんに頼るのは駄目なの？』
するとオスマンさんはあっさりと答えた。
「グルちゃんなら今頃ふかふかのベッドの中でおねむめう」
『…………』
吸血鬼が夜に寝るのか…。本当に切ない。
「さて、じゃあまずは落ち着くめう。大切なのは状況や。場さえ作り出せれば作法は問題やない。」
最終的には気の持ちようやで、とオスマンさんは言う。
「気の持ちよう…」
「それじゃ、頭を下げたまま目を閉じて数を数えるめう。一つ、二つ、三つ__」
私がそうする必要はないのだが、ついつい付き合って目を閉じ、数を数えてしまう。
暫くたって、私はそっと目を開けた。周囲を窺う。燈火。四方の燈火が揺らぐ。いつ掻き消えてもおかしくない頼りない火。しかし、確かな明かり。
「落ち着いた?」
「___はい」
「そう__じゃあ質問に答えてみるめう。君の名前は?」
「宇津宮大」
「誕生日は?」
「一月二十二日」
一見意味のなさそうな質問とそれに対する回答が続く。淡々と。変わらぬペースで。オスマンさんは宇津宮君に背を向けたまま、宇津宮君も目を閉じた上で顔を伏せている。呼吸音や、心臓の鼓動すら響きそうな静寂。
「子供の頃の失敗談は？」
「言いたくありません」
「好きな古典音楽は?」
「音楽はあまり嗜みません」
「初恋の女の子はどんな子だった?」
「言いたくありません」
と、相変わらず淡々とした質問と回答が続いていた。
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作者名：マムシ | 作成日時：2023年5月3日 19時
