壱 ページ4
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日が暮れても、炭治郎は帰ってこなかった。
きっと麓のおじさんが泊めているだろうから帰りは明日の朝かな。
そう推測したボクは、グズる弟達を禰豆子に任せて(ごめんね…)夕餉作りを手伝っていた。
「今晩は冷えるわね」
義母は外を眺めながらポツリと呟く。
『そうだね、囲炉裏の火 強めようか』
「お願いね」
『うん、竹雄が薪をくべてくれたから助かったかも』
後で撫でてやろう。きっと嫌がる素振りするけど嫌いじゃないって皆言ってるし大丈夫でしょう。
そんなことを考えていると、隣から微笑の声。
『……何?』
何か変なことを言っただろうか。
笑みの余韻を残しながら義母は言う。
「お姉ちゃんらしくなったから、つい」
『!』
「出会った頃はよそよそしくて、まるで拾ってきた野良猫のようだったわね」
私を見た瞬間泣き出したのは困ったわぁ。
そう懐かしそうに語る彼女の言葉を耳にして、恥ずかしさに自分の体温が上がるのをひしひしと感じた。
「でも、貴女はまだ私のことを母と見てくれていないようだけど
『っそれは』
貴女は、もう私たちの家族よ」
みんなが認めているもの。
貴女は家族で、みんなのお姉ちゃんよ。
どうやら、この人はボクを泣かせたいようだ。
だがしかし、その手には乗るもんか。
下唇を噛み締めて無言で大根を無心に切った。
その横で、悲しそうな愛おしそうな表情をさせる義母がいた事にボクは最期まで気づけなかった。
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