第 参 幕 ページ18
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朝露も冷めやまぬ頃、とあるお屋敷の道場にて小気味の良い空を切る音が響き渡っていた。
『───九十八、九十九……百!』
振るっていた竹刀を下ろす。
息をつくと髪が揺れ、毛先から汗が数滴 床に落ちた。
『……ふぅ』
深く息をつく。
青い空を仰ぐと雲ひとつ無い快晴の中を雀が飛んでいくのが見えた。
あの時もこんな風に快晴だった気がする。
ひと月前───
ボクは今、鬼滅隊として任務に各地を飛び回っている。
その際にも炭治郎達を探しているけど、手がかりはなかなか見つからない。
気が落ちていたそんな時に舞い込んできた一報。
「カァアア!伝令!伝令!雪村A八 産屋敷邸ヘ招集サレタシ!」
隊士間の伝令役にひとり一匹派遣される
すぐに隠の人がやってきてボクを目隠ししておぶった。
鬼殺隊の当主である
皆、敬意を持ってお館様と呼んでいる。
自分もあまりお会いしたことが無い為 とても
緊張する。
お館様の屋敷は厳重に隠しており、隠密班の【
一般隊士は必ず目隠しをして隠に連れて行かれるのだ。
しばらくして、ゆっくりと降ろされた。
『ありがとうございます』
礼を言うと、照れたような空気を感じた。
そしてすぐに目隠しが外されて
「やぁ、A。元気かな?」
物静かな若い青年が柔らかく微笑み立っていた。
この人がお館様…。
もっと年配の人だと思っていた為、驚きに声が出ない。
それを不思議に思ったお館様は首を傾げた。
「A、何かあったかい?」
『!ぁ、いえっ』
ボクは慌てて跪き頭を下げた。
彼の第一印象は柔らかく優しい好青年……だった。
今日の天気は良いだとか他愛もないのに、彼が言葉を紡げば紡ぐほど畏怖の念が体にまとわりついてくる。
まるで何かの術にかかったかのようだ。
頭が重くて上がらない。
「───それでね、キミを呼んだ理由だけど
今回の最終選抜に“竈門炭治郎”という少年が合格したんだ」
『っそれは真ですか!?』
重かった頭が重石が取れたように勢いよく上がる。
竈門炭治郎、その名を忘れたことは無い。
探していた大切な弟なのだから。
「本当だよ」
お館様の肯定に、一気に高揚し鼓動が速まる。
やっと会える。とうとう会える。会いたかった。抱きしめたい。
「でもね」
会いに行きたい衝動は
「まだ会いに行ってはいけないよ」
この一言で撃沈した。
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