君と、恋の話がしたい。 (ページ46)

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それから彼女と色んな時間を過ごした。
大半は勉強を見てやる事が多かったけれど偶に二人で出掛けたりもした。
勿論、体に負担がかかるようなことはできないから彼女が行きたいという場所の中でもそれなりの場所にしか連れて行ってあげられなかったけれど。
けど、楽しかった。
どこへ行っても何をしても彼女が魅せる幸せに溢れる顔が愛おしかった。

『もうやめなさい』

雪が降っていたある日、父親がそんな事を言った。
だけど彼女を守るのは自分だといつだって思っていた俺だ。そう簡単に彼女から離れようなんてそんな事は考えられない。

『彼女は病気なんだ』

紫「父さんは彼女の事助ける気がないの？」

『紫耀』

紫「だってそうじゃないか」

助けられるかわからないから保証がないから大事な事を誤魔化す。そんなの責任逃れだ。
父親が深くため息をつく。
そしてまたゆっくり口を開いた。

『母さんが死んだ時、どう思った』

紫「...そんな事。今関係ない話やろ」

『じゃあもし今、叔母さんが亡くなったら同じように悲しむことができるか』

紫「だから何がいいたいん」

不謹慎にも程がある質問であった。

叔母さんとは久しく会っていない。
最後に会ったのは丁度母親が亡くなった際に行われた葬式。
俺が小学生の頃だった。
いくら親戚関係にあったとして、そのどうしようもなく哀しむべき感情がたった一人の母親と同じ気持ちであるなんてそんなことはきっとない。

『紫耀、お前は医者に向いてないよ。』

紫「...なんだよそれ」

『医者になるのは諦めなさい。
お前には似合わない仕事だ。』

父親は気難しい人だから俺は常日頃従順になって生きてきた。
だけどこの時ばかりは。
この時ばかりは珍しく怒りという感情が現れた。

俺が医者になる事にあれ程期待をかけていたのは何を隠そう父親だ。
俺が医者になりたいと初めて自分の意志で父親に告白した時、あれ程喜んでくれたではないか。それなのに。

今度は医者になる事を反対された。
そんなのあまりに変な話だと思った。

『いいか紫耀。医者は生半可な気持ちでできる仕事じゃない。それにお前がなりたいものは医者じゃない。そうだろ？』

紫「いいや、医者になる。
ならなくちゃいけない。約束したんだ。」

『お前はただ、彼女の一番になりたいだけだ』

呆れた声で父は言った。
核心をつかれたように。全て見透かされたように。
反撃の言葉を探した。
だけど見つからなかった。
きっと、それが本当に全てだったから。

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