君と、恋の話がしたい。 (ページ17)

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「はい、お土産」

彼女から当たり前のように渡されるパイナップル型のクッキー。
わざわざそんな偽造工作をして、本当に自分の嘘が気づかれていないとでも思っているのだろうか。

廉「サンキュな。どうだった、ハワイは」

「楽しかったよ、海に行って買い物して！」

俺も大概阿保だけど。彼女の前限定で。
本当に楽しそうに笑う子だ。
その笑顔を見れるなら、俺が独占できるなら全て嘘でもなんでも良かった。

廉「肌が随分白いんやね」

「えっ....白くない白くない！
これはめちゃくちゃ日焼け止めを塗ったから」

何気なく、思った事を言っただけで別に深い意味があったわけではないのに彼女は何故か慌てた。
慌てる様子だって可愛らしくて仕方がなかった。

「...永瀬くんは、黒い！」

それが反撃？の言葉なのかわからないけれど、きっと一生懸命に絞り出した言葉なのだろう。
もう驚くほど可愛いんだ。

廉「地黒だし俺は」

「それにしてもだよ！」

廉「はぁ？」

彼女はその時だって笑っていた。
それはそれは楽しそうに。
高校生にもなって、こんなに純白な少女がいるものか。
俺と成瀬は全然違う。

「永瀬くんといると楽しいなぁ」

そもそも成瀬は知らないし。
俺がどうしようもなくどうしようもない奴だって事。
彼女だって俺が望めば途切れやしないし、やることはやって生きてきたし、何しろ成瀬のストーカーをしていた俺だ。
今だって、時より伏せる睫毛が長いなあなんて。俺に向ける笑顔がたまらなく愛くるしいなあなんてそんな事ばかり考えているのに。

「not田中くん」

廉「...田中？」

「知らない？『葱』ってお話。
芥川龍之介が書いたお話。」

芥川龍之介という名前ならわかる。
けど生憎俺は彼女の様に多様なジャンルの本を読んでいるわけではない。
それに、本と呼べるか否かのものばかり。

「男はみんな田中くんで、
私はね。お君さんなんだって。
紫耀くんにそう言われたの。」

また平野。
俺は彼奴みたいに頭も良くなければ医者の息子でもない。

ムカつく。
あまりに一方的で勝手な苛立ちだけれども。

「今度読んでみるといいよ」

全く、神様は意地悪だ。
彼女のこの笑顔を独り占めするのは、俺だけでいいじゃないか。