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変に軽い。足取りも身体も心持ちも。
何か一つぽっかりと抜け落ちたような。
彼女の説得だけではきっぱり認められずにいた俺の中の葛藤を自分の口で確かめて、自ら苦しくなる事をやめたからだろう。
うん、でも彼女のお陰だ。
彼女の存在が俺をうんと強くした。
今度は理由ができた。
それが全てではなくたってそういう事にしておこう。
その中に含まれていた胸の高鳴りとか早まる鼓動とかそんなものは秘密にして彼女の側に居よう。
そう決めていたから俺の足取りは軽かった。
海「お願いします。」
紫「....ねえ、こんなとこで困る。」
海「教えて下さい全部。」
周囲の視線も関係なしにお願いしますと頭を下げ続けた。
平野先輩は困ったように俺を教室から連れ出した。
紫「前にも言ったけど、迷惑だからさ。」
海「....すみません。だけど今からもっとむちゃくちゃな事を言います」
紫「.....はぁ。どーぞ」
海「そもそも僕は貴方に何か許可を取る必要があるんでしょうか。」
紫「....いや、そっちが勝手に来たんじゃん」
そうなのだけれど。
俺にだって平野先輩が彼女にとって特別な存在だということくらいわかる。
わかるけれど俺にとっても彼女は特別な存在だ。
だって彼女は俺のヒーローだ。
海「わかったんです。彼女の力になりたい理由。
彼女がいつも僕に力をくれるからです。」
自分を変えたいわけでも、正義を貫きたいわけでもなかった。
俺は彼女に恩返しがしたい。
彼女の力で自分が幾らか強くなれたように、彼女にも何かしてあげたいと思った。
紫「....君も俺と同じか」
さっきまで俺に対して清冽な態度をとっていた平野先輩がとうとう何か諦めたかのように笑う。
そしてあまり嬉しくないらしそうにわかったよと言う。
紫「Aの一番になりたいとか思わないでね」
海「わかってます。そういう目で彼女のことは見てません。」
紫「あとさ、Aの事を外敵から守ってくれる?」
海「外敵って、平野先輩。
そもそも平野先輩に敵はいないと思いますよ」
紫「君って本当に賢いんだね」
この日から平野先輩と俺は一種の契約のようなものを結んだんだと思う。
第一人者は勿論平野先輩だ。
だとしたら、一番近くて一番遠くあるべき存在として彼女を見守るのが俺の定なのだと思う。
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作者名:ふる | 作者ホームページ:http://twitter.com/ei_njo
作成日時:2017年10月7日 15時