Emotion5

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例えばの話。
例えば待ち合わせをして落ち合うとする。
いや、それはまだ、気がひける。
じゃあ、偶然を待つか。
.....そんな奇跡、きっと起こりえない。
それなら偶然を装うしかない。
.....無理だ。そんなことできない。
私、嘘つくの苦手だから。

方法を考えた。
もう一度、紫耀に会う為の方法。
誰にも内緒で考えた。
誰も傷つかないような最善な方法を。

「会いたい会いたい会いたい会いたい」

ベットにダイブしてひたすら、そう唱える。
何もせずにはいられないのだ。
だけどこんな小さな秘密の哀願なんて効力はないんだろうなあとも思っている。勿論。
わかっているならどうして。
どうしてそんな惜しんだはずの願望を捨てられないんだろう。

大体、私のやり方はきたないのだ。
廉と話しがしたいのなら、連絡の一つ入れれば良いではないか。
突然バイト先に押しかけるなんて、話に取り合ってもらえない場合の最終手段であろう。
話しがしたいと。そう伝えればいいはずだった。

それができなかった。
どうして出来なかったんだろう。
怖かったのかもしれない、苦しくなることがわかっていたから。
それに、何より廉を苦しめてしまうから。
本当は、廉がいないことに安心さえしていたのかもしれない。

帰り際、岸さんに言われた言葉を思い出した。

「誰かの幸せより自分の幸せの方が大事だ」

果たして、私はそんな傲慢に生きて良いのだろうか。
罪は消せない。それに大きい。
だけどそれ以上に今、私は紫耀を想ってしまっている。
これは自分のポリシーに矛盾している。

......うん、やっぱり。
岸さんに何を言われたって私が紫耀の所へ行くのはおかしいのではないか。
あまりに真っ直ぐ説得されてしまったから血迷ってしまった。
うん、おかしい。
そう思い直して頭の中から消していく。

きっともう交わらない。
交わることはない。


「ピンポーン」


交わらないはずなのに。
あっけなく、願えば叶うものなんだと思い知る。
このパターンは考えていなかったな。
..........どうしよう。


インターホンこ向こう側、
私が一番会いたい彼がいたのだ。



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