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そうするよりも前に、髪の毛を強く掴まれたから。後ずさろうとしたけれど、フレディは勢いよく少年の顔を自分に近づける。
「ご、ごめんなさい、僕、やっぱりあの天使殺せな――」
「ァアﾞ！？ テメエがぶっ殺してどうすんだ！！」
――あれ？ 思わず目を丸くした。
「オレサマは”手伝いをしろ”と言ったんだ！！ 元より天使は自分の手で殺るって決めてんだよ！」
ゴキッ、と嫌な音がする。誰かを殴る拳の準備をしているようで。
「……そ、そんなの聞いてない……！」
「アァ？ てめえ、まさか悪魔が嘘つくとでも思ってんのか？」
「そうじゃなくて、フレディは説明が足りてない……ん、です！！」
「うるせえッッ！！ 今更取ってつけたように敬語つけてんじゃねえッッ！！」
屋根の上に契約者を落としたフレディは、もう一度空へ飛び立とうと翼をひろげている。その背中に思わず手を伸ばして抱きついた。一瞬、その重さに驚いたのか動きが止まる。一瞬の沈黙の後、じろりと真っ赤な瞳がこちらを睨みつけてきた。
でも、なんでだろう。天使のあのギョロギョロとした目より全然怖くない。単純に味方だから、というわけでもない、何かが自分を突き動かす。
「……お、お願い、置いて行かないで……！ 手伝いなら、多分、死ぬ気でやればできるから……！」
「言ったな？」
「うっ……で、できる範囲で、だけど……」
「――ハッ！ 怖気づいてんじゃねエよ！！」
回した腕を力強く握りしめられる。また飛ぶんだ。
「どこまでも舐め腐りやがって、ぶちのめしてやるまで終わらねえからなァ！！」
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「――”あれ”が悪魔？」
黒いヴェールの奥に隠された瞳が歪む。
「……？ どこからどうみても悪魔じゃない？」
「そうじゃなくて……この話はいいわ。あれが暴れてくれるおかげで多少はじっくり見られるものね」
なにかが得られるかもしれない。そう呟いて、悪魔――シンシャはもう一度視線を別の化け物の方へと移した。
赤髪の悪魔は器用に飛び回り、天使の頭を地面に叩きつける。殴られ、ヒビが入った人間の側頭部は埋まったまま。けれど次にフレディを襲うのは、先程よりも鋭い牙を持つ獅子の頭だった。天使が襲うのはあくまでも人間。しかし、狙いたい人間は悪魔の背後で守られている。
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