| ページ12
パチン、と彼女は指を鳴らす。瞬間、私がまとっていたボロボロの私服は、くたびれた誰かの制服へと変わる。
「……それは、そうだけど、でも」
「大丈夫。人はすぐには変わらないし、変われない。ボクは十分に理解しているからね! 少しずつ、変わればいいのさ」
「……」
さて、と彼女は180度ターンする。ふわりと薔薇があしらわれたスカートが宙を舞う。私と違ってとても可憐な容姿をしているのに、なぜか違和感を感じる。
「もちろん、この世界はきれいごとばかりではないさ。
本来、人間は一度死んでしまえば二度と元に戻ることはできない」
ローファーの音が響く。廊下を塞ぐように倒れたロッカーの下に、血溜まりがあった。目をそらす。悪魔の彼女は気にもとめずに、ぴょんとロッカーをまたぐ。靴に血は一滴もついていない。
「……じゃあ、どうして私は生き返ったの?」
「ボクと”契約”を交わしたからさ!」
「なんの、契約?」
「キミを生き返らせる……蘇生させるかわりに、”天使”を殲滅する」
思わず立ち止まる。
「……えっと、天使って、さっきの話に出てきた天使?」
「ああ、もちろん! ボク達悪魔にとって、天使は百害あって一利なしだからね」
「一回殺されてるのに、人間が倒せるの?」
「倒せるかどうかじゃない。抹殺するという約束を交わしたんだから、守ってもらわなきゃ」
冷たく言い放たれた一言に、先程までの笑顔と余裕はなかった。
きっと騙されたと訴えても遅いのだろう。それ以上何も言えなくなった。……シエラを怒らせた私が悪いのかもしれない。
「もちろん、戦うための準備はするさ。そのまま無策で突っ込んでも意味がないからね」
「……」
「キミに戦う力をあげる。多少の代償は必要だけど、生き返るための契約の代償を支払ってもらうためには仕方のないことさ。いくらでも力を貸そう!」
ロッカーの前で足を止めたままの私の前に、シエラが戻ってくる。
立ち止まった私の両手を、細く白い手が包み込む。両手から視線を上げると、また笑顔を浮かべるシエラの顔が広がった。後ろには赤が広――
「見ちゃだめだよ」
――がらなかった。
まるで宇宙みたいな、美しい星空のような翼に覆われる。
「ね、いいよね?」
55人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ