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Aの料理の腕前は、なかなかのものだった。
「………うまい。」
シチューをひとくち口に入れて。
思わず顔を上げて、Aを見ながらそう言えば。
「お口に合ったのなら、よかったです。」
そう言って、少しだけ表情を柔らかくした。
「パンもあるので、よろしければ、」
「ぁー……いいよ、悪いから。」
「?」
不思議そうな顔をしてこっちを見ている。
「Aが自腹で買った食材だろ?」
「……はい。」
「俺が食っちゃダメだろ。」
ああ、そういう意味でしたか、と納得している様子。
「……そしたら、あの、差し出がましいかと思いますが、」
「ん?」
「宿代の代わりといってはなんですが、私、お食事の用意をしても…よろしいでしょうか、」
目線を下にして、恐る恐る提案されている。
まぁ、口を出されるのが嫌いだ、と最初にはっきり言ってあるからだとは思うけれど。
「………そしたら……頼むわ。」
「本当ですか、」
ばっと顔を上げてこっちを見る。
「ただ、俺はマジで食に興味ねーの。たくさんはいらない。それだけ、覚えといて。」
「わかりました。」
盛り付ける前に、ご希望の量をうかがいますね、と言って、Aは小さく小さく口角を上げた。
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作者名:月華 | 作成日時:2023年3月28日 1時