歯車は今、処刑台を彩める。 (ページ21)

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境界の1歩手前ページ21

虚とヒヨは崖の上にいた。

明け方のオレンジと明け方の空色が混じり、広がる。

絵の具を垂らしたような美しさ。

仏蘭に来たばかりの虚が好きになった場所だ。

「…」

「ヒトエ…ヒトエ・W・マクスウェル。知らないとは言わせないからな。」

「…ヒトエは、この国に居ない。」

ひどく疲れきった、諦めた笑みで言う。

「純血の狂戦士がこの街に必要、だから彼はここに居る。
愛されたような感覚で…彼、泣いてた。」

「…」

素早く背後の影を察知する。

影の正体は怖い怖いと言いながら両手を上げて笑った。

黒狐は傷だらけだったが、どこか楽しそうだった。

「黒狐、お前。」

「あ、怪我は気にしないで。仕事の関係上仕方なくてね。」

「…黒狐、会うのは初めましてか。」

「ヒヨ・ユメルス・スヴァンガーリ。初めまして、彼から話は聞いてるよ。」

黒狐が言った彼とは恐らくヒトエだろう。

ヒトエと黒狐はとても仲が良かった。

独壱に足を運び続けたのはそれもある。

「さてさて、依頼を片付けますかね。」

「依頼？まさか…」

「依頼人、ヒトエ・W・マクスウェル。御二方に伝言を。」

黒狐は白い封筒をパッとだした。

彼女は暗殺業をしているので思わず身構えてしまった。

真っ白の便箋には何か一言書いてある。

それだけなのに、わざわざ？

と、虚は不審に思った。

「僕は今、独壱に居ます。店長…もとい、僕を必要とするクズの元へは帰れません。

探さないで、君達のために。

ヒトエ・W・マクスウェル。」

黒狐は読み終わって封筒を仕舞った。

2人は呆然としていた。

…会ったら一発殴ろうと虚は呆れた顔でため息をついた。