10話 飴ちゃん ページ11
アシ「これがオヒョウの木だ。コタンに帰るついでに皮を剥いで帰ろう」
貴『剥がしてどうするんですか？』
杉元「焚き付けに使うのか？」
二人がそう聞くと、アシㇼパはプーッと小馬鹿にしたように笑い、着物に使えることを説明した。
アシ「木というのは山に座っているカムイであって、樹皮を剥ぐのは大切な衣服をいただくということ。だから捧げ物が必要だ」
貴『へぇ〜普通は何を捧げるんですか？』
アシ「普通は煙草などを捧げるけど、誰も持ってないから…白石！飴ちゃんを出せ」
白石「…っ！」
貴『え！白石さん飴ちゃん持ってるんですか？食べたい食べたい！』
白石「…くーん」
…
アシ「よし！もう充分だ。これでだいたい一人分の着物になる」
貴『疲れた…』
白石「オヒョウの皮を剥ぐだけでも重労働だな……あ？」
白石は雪の上にゴロンと寝転ぶと、何か見つけたのか杉元とミツキを呼ぶ。
白石「ねえ見て杉元、ミツキちゃん！福寿草の花が咲いてるヨ？」
杉元「ヤダかわいい」
貴『キレイ〜』
「春が近いんだな…」なんて話をしていると、アシㇼパが口を開く。
アシ「チライ•アパッポ。私達はイトウの花と呼んでいる」
杉元「イトウって川魚のあれ？」
アシ「そうだ」
アシㇼパが解説をしていると、白石が川の方に何かを見つけた。
白石「…ん？川を堰き止めてる？」
アシ「魚を取る為のアイヌの仕掛けだ」
貴『なんだかお腹が空いてきたなぁ…』
白石「イトウって結構うまいって聞いたぜ？この川で取れないかなぁ」
そう言って白石は仕掛けへ向かって歩いていく。
アシㇼパは「簡単に言うな」と言った後、恐ろしい形相に変わり、続ける。
アシ「イワン•オンネチェプ•カムイだったらどうする…？」
貴『名前長っ』
杉元「なんだいそれは…？」
アシ「昔、漁師に追われたヒグマが然別湖を泳いで逃げた。暫くするとヒグマの姿が消えたので見に行くと、
巨大なイトウがいて、その口の端からヒグマの前足がのぞいていたという」
貴『ひえ…』
アシ「イワン•オンネチェプ•カムイは、イトウのヌシだ」
白石「へえ〜…ヌシねぇ…」
その時、ミシミシと何かの音がしたと思った瞬間、アイヌの仕掛けがバキャッと壊れて白石が川に落ちていった。
白石「…！うわっっ！！」
貴『！白石さん！？』
ミツキが落ちていった白石に慌てて声をかけると、川の中から白石が必死な様子で顔を出す。
白石「プハ…ッ！ここすげぇ深い！たすけて！つめたあい！！」
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作者名：ちあきんぐ | 作成日時：2024年2月25日 22時
