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捌拾漆話「戻れ」 ページ44

side無し

「ねぇ、やめて。
傷付けないで」

モ「ッ、私は…それで幸せに……」

「?他人の幸せを壊してまで奪ったそれが、本当の幸せなの?
ねぇ、教えてよお姉さん」

子供らしく、キョトリと首を傾げる少年。
だけど、その姿が少女に重く鋭く突き刺さった。
……少女は、妹を亡くしていた。

目の前で零れ落ちた儚い命。

一度亡くした者はもう二度と戻ってこない。
それは少女も理解していた。
だけど、それでも何かに縋っていたかった。

それが、最愛の妹を裏切った形になっても。

「ねぇ、お話しようよお姉さん。
ここは綺麗なだけで何も無いところだけど、幾らでもお話出来るよ」

ニッコリと年相応の幼い笑顔で笑った少年に絆され、二人は暫し座り込んで"お話"をした。
好きな物、嫌いな物、楽しかった思い出。
本来なら壊さなければならない筈の精神の核を前にして、少女は時間を忘れる程話し込んだ。

「…僕ね、一人ぼっちなんだ」

ふと、少年がそう呟きながら体育座りした膝に顔を埋めた。
何処か悲しそうなその風貌に、少女は思わず少年の背をさすろうと手を伸ばした。

──伸ばされた手は、ピクリと反応したっきり動かなくなってしまった。

「いつからかな、気付いたらこの空間に一人ぼっち。
風景はたまに変わるけど、それでも此処には僕だけしか存在しない。
……だから、今日此処に貴方が入ってきて凄くびっくりしたんだ。
後ろから驚かせようとしたけど、怖い物持ってたから思わず裾を引っ張ったちゃんだ」

口調は子供のそれなのに、何処か大人びた雰囲気に少女は行き場を無くした手をポスリと床?に置いた。
二人の間にそれっきり静寂が流れる。
何分、何時間。

この空間に時間など流れない筈なのに、そう錯覚する程長い時間が経った。

──その静寂を静かに壊したのは、少年の方だった。

「……この空間は、"彼女"の感情によって左右される。
大泣きすれば雨が降るし、怒れば火山が噴火する。
寂しい時は静かに雪が降るんだ。
…今の感情は、酷く寂しいみたいだね。
振り積もってる」

モ「……」

物悲しそうに宣う少年を見て、少女も思わず眉を下げる。

──ふと、光が差し込んだ。

「…どうやら、お目覚めのようだね。
今回はお話を聞いてくれてありがとう、とても楽しかったよ」

空間の向こう側から、光が差し込んでいる。
その光に溶けて行きそうな少年を見て、少女は思わず彼を抱き締めた。

「…え」

モ「…此方こそ、ありがとう。
ごめんね」

空間を、光が満たした。

その瞬間、抱き締めた少年が一瞬己より遥かに大きい青年の姿に変わった気がした。

え、あのちょっと待って下さい……。→←捌拾陸話「瑠璃の夢」



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きーねちゃん(プロフ) - みかんといちごさん» テンキュー!はいごみ収集車にぶちこむぜ☆オルァ! (2020年8月8日 0時) (レス) id: a598922371 (このIDを非表示/違反報告)
みかんといちご - きーねちゃんさん» はーい!ニクマン\(^-^ )ブンッ (2020年8月8日 0時) (レス) id: 085b083a26 (このIDを非表示/違反報告)
ハルサ(プロフ) - kiki11241さん» なる……予定です!(おい)すいません頑張ります! (2020年8月5日 20時) (レス) id: d6c0176894 (このIDを非表示/違反報告)
kiki11241(プロフ) - あれ本当に杏寿郎オチかな? (2020年8月5日 19時) (レス) id: 3664f0360e (このIDを非表示/違反報告)
きーねちゃん(プロフ) - みかんといちごさん» へいパース!僕今ならゴムの手袋を五万枚重ねてるんで大丈夫でーす! (2020年8月4日 22時) (レス) id: a598922371 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ハルサ | 作成日時:2020年7月9日 18時

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