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漆拾玖話「毒吐」 ページ35

しのぶside

し「…………」

嗚呼、吐き気がする。
彼女を視界に入れるだけで、グツグツと煮え滾る怒りが吹き出てしまいそうだ。

──もう良い。

激情は今も火山の様に噴火し続けているのだが、その傍ら何処か冷ややかな気持ちになっていた。
多分、諦めたのだろう。
もう限界だ。

彼女には、もうなんの希望も見出す事が出来ない。

ただただ、"知らない人"と接しているような虚無感が私の胸の中を支配していた。

『…ごめんね、もう此処には来ない方が良いかな……?』

緩やかに首を傾げ、何かを"確認"する様なその仕草。
こんな状況でも、柔らかい表情を絶やさない姿に思わず私の中で"希望"の感情が鎌首をもたげる。
今ならまだやり直せるのでは無いか、彼女は本当は何もしていないのでは無いか。

──ふぇえぇん……しのぶちゃあん…。

─戯言をやめなさい、彼女は許してはいけません

だけど、ポロポロと涙を流す萌香さんと私の中に蠢く憎悪の感情が彼女に手を差し伸べる事を許さない。
結局、差し伸べようとした手は隊服の裾を掴む事で終わってしまった。

だから私は、今日も"裏切り者"の仮面を被る。
余計な感情を斬り捨てて。
泣き崩れる彼女の偶像を見ない振りして。

し「……答えはもう分かっている筈でしょう?そんな事も分からないんですね、貴方は」

『──』

パキ、と辛うじて形を保っていた"何か"が今度こそ砕け散る音がした。
……気がした。
本当に気がしただけだ、他意は無い。

ようやっと裏切り者に絶縁宣言を出来て嬉しい筈なのに、何故私の胸の中にはどんよりとした感情が蠢くのだろうか。
──何故、"後悔"の二文字が浮かび上がるのだろうか。

『…うん、そうするよ。
ごめんなさい、"胡蝶さん"』

──違うの!やめて!彼女は本当はやっていないの!だから……
『はい、そうして下さい。
では、この話は終わりです。
二度と私の前に姿を表さないで下さい』

頭の中に響く戯言を無視し、静かに部屋を出ていく彼女の姿を見送った。
このまま動かなければ、もう二度と出会えない気がして──思わず手を伸ばした。
だけど、肝心の口は動かない。

──動けない。

やっと動く事が出来た時には、もう彼女はいなかった。

……何処か哀愁の漂う、金木犀の匂いを遺して。

カ「……しのぶは、本当にそれで良いの?」

いつの間にか後ろにいた己の姉に驚きつつも、振り返らずに彼女の去っていった方を見て口を開いた。

し「…良いのよ、これで」

特に意味もなく置いてあった砂時計の白砂が、全部下に落ちた。

捌拾話「銅貨の標」→←漆拾捌話「どうして」



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きーねちゃん(プロフ) - みかんといちごさん» テンキュー!はいごみ収集車にぶちこむぜ☆オルァ! (2020年8月8日 0時) (レス) id: a598922371 (このIDを非表示/違反報告)
みかんといちご - きーねちゃんさん» はーい!ニクマン\(^-^ )ブンッ (2020年8月8日 0時) (レス) id: 085b083a26 (このIDを非表示/違反報告)
ハルサ(プロフ) - kiki11241さん» なる……予定です!(おい)すいません頑張ります! (2020年8月5日 20時) (レス) id: d6c0176894 (このIDを非表示/違反報告)
kiki11241(プロフ) - あれ本当に杏寿郎オチかな? (2020年8月5日 19時) (レス) id: 3664f0360e (このIDを非表示/違反報告)
きーねちゃん(プロフ) - みかんといちごさん» へいパース!僕今ならゴムの手袋を五万枚重ねてるんで大丈夫でーす! (2020年8月4日 22時) (レス) id: a598922371 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ハルサ | 作成日時:2020年7月9日 18時

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