宝物。 ページ33
side無し
『…贈り物?私に?』
響「……うん、最近迷惑かけっぱなしだったから」
そんなの良いのに……と不思議そうに首を傾げながら、差し出されたそれを受け取る。
何やら随分小さいものらしい。
微笑みながら「手を閉じて」と言われ、素直に従った鏡花はまだ手の中の物体が何か分かっていなかったのだ。
そして─────それは遂に解明される事になる。
響「開いてみて」
言われるがまま、手を開く。
そこにあったのは────小さな小さな、耳飾りだった。
紅い紐で結ばれた、菊結びの耳飾り。
響本人がまだ幼い為か、少し綻びが見える。
しかしそれでも姉の為に頑張ったのだろう、小さな手には無数の絆創膏が見える。
【女】という性別だけで人間として見られず、生きる価値の無い無能扱いされてきた鏡花にとっては響は紛れもなく憎悪の対象だった。
だってそうだろう、幼い頃から虐待され、幾度も精神を壊されてきた彼女に善悪の分別などつくはずが無かった。
けれど、それは違った。
鏡花は───確かに、響と出会って【心】を貰ったのだ。
何事にも変え難い、かけかげのない"宝物"。
大切な大切な、宝物。
何が言いたいかと言うと────その耳飾りは、確かに二人の【絆】の結晶だったのだ。
少し拙くて、でも尊くて愛らしい。
これを友情と呼ばずして何と呼ぶ。
『……っ、』
息を呑み、瞠目しながら言葉を探す。
しかし、喉を昇った言葉は寸前で呑み込まれてしまった。
驚きとは違う──何か暖かいものが胸の奥からせりあがってくる感覚がする。
あまりに厚すぎるそれに、視界がパチパチと弾けるのだ。
ふわふわ、パチパチ。
何故だか目の前の響の顔が霞んで見えてしまう。
不思議だ、風邪はひいてないのに。
ツゥ…と、何か暖かいものが頬を伝う。
生暖かいその感覚に、素直に瞠目する鏡花。
『え……あれ?何これ、気持ち悪い…』
響「姉ちゃん…もしかして……泣いてるの?」
『え……?』
困惑の正体は、未だ頬を伝う涙が教えてくれた。
image:http://uranai.nosv.org/uploader/common/d/6/b/d6b9f95292de890479a3e8b5cb64c0e7.jpg
『わ、からない……こ、これなに?』
響「…姉ちゃん、それは嬉し泣きだよ。
姉ちゃんは今、嬉しくて泣いてるんだ」
『……そうなの?』
心底不思議そうな顔をする鏡花。
嗚呼、彼女は泣くことすら許されていなかったのだ。
正確には、彼女の記憶にある限りでは涙というものが存在しない。
今まで、感情を押し殺して生きてきただからだ。
けれど────彼女は、漸く泣けたのだった。
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ルカ(プロフ) - りあてゃんさん» コメントありがとうございます!てぇてぇ姉弟…。響くんは圧倒的に鏡花ちゃん子なのに使用人と親共に未来は無い(殺意) (2021年2月23日 10時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
りあてゃん - んあ”ぁぁぁ.....響くん良い子!鏡花ちゃんに似てめっちゃ良い子!!もう使用人とか親とかは全力で滅んでくれ、お前らは二人の幸せを邪魔する存在でしかない(( (2021年2月21日 11時) (レス) id: 15f52de452 (このIDを非表示/違反報告)
ルカ(プロフ) - ゆゆさん» コメントありがとうございます!この家はクソ野郎しかいない……(おい)いつもありがとうございます! (2021年2月17日 22時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ(プロフ) - 立場を利用してキョウカをいじめる使用人が何よりもムカつきます。旦那サマがやってることは決して良いことではないけど、使用人のやってることはそれ以前に卑怯だと思うんです。 (2021年2月17日 18時) (レス) id: 7c7117969d (このIDを非表示/違反報告)
ルカ(プロフ) - あなたさん» ありがとうございます!お待たせしてすみません!これからも読んでくれると嬉しいです!! (2021年2月17日 7時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルカ | 作成日時:2021年1月31日 23時