過去、不穏な傷 ページ45
side無し
その言葉通り、彼岸は仕事の合間にちょくちょく優希に会いに行った。
その度優希は快く出迎えてくれたし、彼女自身も今まであまり好きでは無かった現世に出向く事が一つの楽しみになった。
今まで言葉には出さすとも捻くれていた彼岸の変化に、地獄の面々誰もが安堵したし誰も引き止めはしなかった。
だが───、その関係が長続きしないのは、誰もがぼんやりと分かっていた。
その事実が露見したのは、ある雨の日の事。
雨漏りが酷くて壊れてないかと、彼の秘密基地の様子を見に行った帰りであった。
『…っ、』
不意に、彼岸の足が止まる。
キュッと口元を結び、意図せず瞳孔が細くなる。
優「ん?どうしたんだ彼岸?」
不思議そうな顔でクルリと振り返る彼岸。
優希の髪は長くも短くもない。
所謂ショートカットという奴だ。
突然何をと思うだろう。
だが──彼岸は確かに見てしまったのだ。
ペットリと項に張り付く黒髪から除く、真新しい痣を。
だから、それが彼岸の動きを止めた。
丁度彼の一歩後ろを歩いていたのが運の尽きだろう。
無闇に手を出してはならぬ、とは分かっている。
それでも───身体が動いていた。
彼から借りた傘をバシャリと地面に投げ捨て、つかつかと近寄る。
優「わ、わ、どうしたんだ彼岸?」
わたわたと両手を上げ慌てる優希を無視し、こちらを向いた彼の後ろへと回り徐ろにその項の髪を捲った。
「へぇあっ?!」と変な声を上げる優希。
だが、どこか呆気からんとした悲鳴とは裏腹に──その項は、残酷にいつもなら有り得ない筈の紫色をくっきりと刻んでいた。
嗚呼───やはり見間違いではなかった。
ギリッ、と唇を噛む。
地獄では見慣れた筈のその血の味が、今は酷く不愉快に感じた。
髪を捲った時僅かに服の隙間から見えた、別の痣や傷跡にブチリと何かが切れる音がした。
『……優希さん、こちらへ』
優「え、わ?」
グイ、と彼の手を引く。
手から滑り落ちバシャリと落ちた傘を置き去りに、近場の路地裏へと向かう。
そのままグイッと腕を下に動かし、ドサリと座らせる。
一応乾いたダンボールに座らせた筈だから、濡れてはない筈だ。
『…傷を』
優「へ、」
ビクリと優希が身体を揺らす。
どうやら気付かれてないと思っていたらしい。
なんて愚鈍な心意気だ、と彼岸は内心歯噛みした。
困ったように視線を彷徨わせた優希は───一瞬間を置いて口を開いた。
優「────」
放たれた言葉は……しかし割れるような雷鳴に遮られてしまった。
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ハルサ(プロフ) - 碓氷時雨さん» (・ω・(ヾ)YES!(ストーブの前で書き書き) (2020年11月4日 21時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
碓氷時雨(プロフ) - うっす!(`・ω・´)ゝ(布団の中待機なう) (2020年11月4日 2時) (レス) id: 49e22a6e0b (このIDを非表示/違反報告)
ハルサ(プロフ) - 碓氷時雨さん» ありがとうございます!ですが最近冷え込んで来たので、暖めるのを忘れずに……!ヾ(・ω・`;)ノぁゎゎ (2020年11月3日 21時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
碓氷時雨(プロフ) - マジっすか!全裸待機してますね!)))) (2020年11月3日 19時) (レス) id: 49e22a6e0b (このIDを非表示/違反報告)
ハルサ(プロフ) - 碓氷時雨さん» ( °ω° ;)=( ;°ω° )イエイエイエ!!(高速首振り)全然大丈夫なんですが、なんかすいませんこちらこそ……とりあえず、近いうちに制作予定なのでよろしくお願いします(´・ω・`) (2020年11月3日 15時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハルサ | 作成日時:2020年10月18日 12時