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「駅まで送るよ」と外に出たカヤさんと俺。
先程より、もう少し暗くなった夜空。
心なしか、吹いている風も冷たくなった気がする。
この辺りは都会と言えるほど建物はないが、田舎と言うほど森などがある訳でもないから、星はまばらに見えるだけだった。
こう空を見ていると、どうしてもさっきの進路希望調査の紙を思い出してしまう。
何とかしなければいけないのにな。
やっぱり、研究者は諦めようか。
カヤさんのように、嫌なことは忘れてしまうべきかもしれない。
知る前に戻ってしまえれば楽かもしれない。
カヤさんが隣で歩いているのにも関わらずその事について考えていたら、急にカヤさんが話し出した。
「さっきさ、私、嫌なことは全部忘れるって言ったでしょ?」
俺は、今考えていたことと同じことをカヤさんが言ったので、驚いて目を見張る。
「でもね……」と、カヤさんは言葉を紡ぐ。
「忘れて良いことと悪いこと。向き合わなくちゃいけないもの、向き合わなくて良いもの……っていうのはこの世の中には少なからずあるはず」
「将来のことっていうのは、タスクくん見たいにじっくり考える方がいい。重要だから。
でも、考えすぎてスタートに遅れるのはだめ」
「長距離走と同じ。スタートダッシュしすぎても、最初ゆっくりしすぎてもダメなんだよ、多分ね」と、カヤさんは笑った。
私も昔はそうだったと、空を見上げる。
「ただ、出来ることを全力に。力の限り。やってみてダメだったら、忘れちゃえばいい」
「でもね、もし、躓くことだらけで、自分が成長してるかどうか分からなくなったとしても、困難に突き当たるのは、前へ前へ走っている事が原因なんだよ」
私だって、なかなか売れなくて、歌手って夢があることを忘れたくなるけど、頑張ってるんだ。
その時のカヤさんの笑顔は、なぜか今でも心に残っている。
「だから、今鞄からはみ出てる“それ”は、自分がやりたいことを書けばいいんじゃないかな?」
「……ははっ、全部お見通しってことか」と、カヤさんと別れてから乾いた笑いが口から出た。
駅に入る前、ぼんやりと空を見上げると、星なんか見えやしないはずなのに、なぜか光輝いて見える。
ああ、やっぱり、夢、諦められないや。
帰ったら、親に相談してみようかな。
今歩いてきた道を振りかえる。
カヤさん、俺、頑張ってみようと思う。
もう見えない後ろ姿に向かって、そう叫べた気がした。
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あおい(プロフ) - 完結後、読ませていただきました。どのお話も、少し考えさせるような、奥が深いもので、私もこういう小説を書いていきたいです。 (2020年4月28日 7時) (レス) id: 331ddf8f4c (このIDを非表示/違反報告)
りぃあ♪# - 完結おめでとうございます!どのお話も奥が深く、読んでいてとても考えさせられました。とても面白かったです。 (2020年4月18日 8時) (レス) id: 77648adcbf (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 完結おめでとうございます。どのお話もすごく心に残り、自分と重ね合って読んでいました。すごくいいお話だったと思います。 (2020年3月31日 19時) (レス) id: eb71493e70 (このIDを非表示/違反報告)
小幅 - とても面白い作品ですね!続きが楽しみです。 更新、無理しない程度に、頑張ってください! (2020年3月30日 15時) (レス) id: 62007663da (このIDを非表示/違反報告)
はんな(プロフ) - 情景描写がくわしくて、上階が本当に浮かんできます!素晴らしすぎる… (2020年3月28日 11時) (レス) id: 3170240b5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷・結・ゆいなー・あお・ここは x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hp-rei/
作成日時:2020年3月24日 19時