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「やっぱりわからないね、幸せって」
「だからみんな、幸せを探してるんじゃないのか」
「…そうかもね。」
口角をちょっとあげて、ふふっと笑った顔がいつもより大人っぽかったから。
少しだけ心音が耳の奥で大きく響いているような気がした。
きっと夕日に照らされた教室というロマンチックなシチュエーションの吊り橋効果だとか、
窓際の席だから暑いんじゃないかとか、
たくさん心の中で言い訳を並べたけれど、どれもしっくりこなくて。
まだ少し自分の気持ちを、理解しきれていないんだと思う。
「帰ろうか、暗くなっちゃうよ」
そういって鞄を持ち、部室を出て行く彼女の後ろ姿を追った。
外に出るともう東の空は濃紺に染まりかけていた。
校舎からはよく知る教師の声で、最終下校時刻の放送が鳴る。
2人で並んで歩く帰り道。
ローファーの底がアスファルトを蹴る音が心地よかった。
「あれ、悠飛あっちじゃないの?」
「いや、送ってく。もう暗くなるだろ」
ありがとう、と笑う横顔。
やっぱり何だか心音が耳の奥で大きく響いている気がした。
でもそんな自分の気持ちに、何だかありふれた表現だな、と思う。
ドキドキするだとか、愛おしく思うだとか。
確かにストレートで1番わかりやすい言葉選びだけれど、あまりに流通しすぎていてつまらない言葉だなと思うんだ。
もっと何か、生き生きとした表現をしたい。
表現をしたいなんて思うのも久しぶりだった。
でもどこか、気持ちが違う気がする。
前は表現だけが心の拠り所だった。書いていないと心も体も死んでしまう気がしていた。
今は違う。綺麗なものを見れば、自分の心が動けば、自分にあった生き生きとした表現を探している。
わかった気がした。これが停滞した日常、なんだ。小さな幸福なんだ。
自分から表現が好きです、なんて言えるほどでもないけど。
でも心動かされるたび、それに合う言葉を探していた。
「好きと嫌いの間には何があるんだろうな」
「無関心じゃないの?」
「いや、どちらかというと好き寄りの」
スラックスのポケットに手を突っ込み、夕空を見上げながら考えた。
これもありふれた感情だと思う。
好きでもない嫌いでもない、でもどちらかというと好きに近い感情。
大半の人がこれをなんと呼ぶのか真剣に考えたことなんてないだろうな、と思う。
「…好きでいいかな、と私は思うなぁ。」
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あおい(プロフ) - 完結後、読ませていただきました。どのお話も、少し考えさせるような、奥が深いもので、私もこういう小説を書いていきたいです。 (2020年4月28日 7時) (レス) id: 331ddf8f4c (このIDを非表示/違反報告)
りぃあ♪# - 完結おめでとうございます!どのお話も奥が深く、読んでいてとても考えさせられました。とても面白かったです。 (2020年4月18日 8時) (レス) id: 77648adcbf (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 完結おめでとうございます。どのお話もすごく心に残り、自分と重ね合って読んでいました。すごくいいお話だったと思います。 (2020年3月31日 19時) (レス) id: eb71493e70 (このIDを非表示/違反報告)
小幅 - とても面白い作品ですね!続きが楽しみです。 更新、無理しない程度に、頑張ってください! (2020年3月30日 15時) (レス) id: 62007663da (このIDを非表示/違反報告)
はんな(プロフ) - 情景描写がくわしくて、上階が本当に浮かんできます!素晴らしすぎる… (2020年3月28日 11時) (レス) id: 3170240b5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷・結・ゆいなー・あお・ここは x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hp-rei/
作成日時:2020年3月24日 19時